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<苦労して人材を採用したのに、蓋を開けてみれば「思うように育たない」「少し強くいっただけですぐに辞めてしまう」そんな悩みは多い。成長を支援し定着を促進するには、どうすればいいか?>

事業環境もさることながら、採用の市場もどんどん厳しくなり、今まで以上に人員不足も叫ばれています。

つまり、そもそも人を採用することが難しくなっているということです。「もし辞めたらまた採用すればよい。辞めてしまうのは仕方ない」という考えは通用しなくなっています。

ひと昔前まではそういった考えでも成り立っていたかもしません。以前の考えから変わっていない現場のマネージャーからすれば「もっと適性のある人材を採用してほしい」であったり、「人事側でもっとちゃんと教育してほしい」と思うかもしれません。

なんとか苦労して期待できる人材を採用したものの、蓋を開けてみれば「思うように育たない」「少し強くいっただけですぐに辞めてしまう」といったお悩みをよく耳にします。

今回は新入社員の成長支援と定着を促進するための考え方、実践方法を2回に分けて解説します。

入社後に新入社員がつまづくこと

出典:株式会社マネジメントパートナー

まず、上の図を見ながら新入社員が入社後にどのようなことでつまづくのかを見ていきます。

入社後、新入社員は社会人として覚えることがたくさんあります。慣れないなかでも組織の一員として溶け込めるように、さまざまな人と関係を築こうとしながらあっという間に半年がたち、段々と入社前のイメージとのギャップも感じ始めます。

そうして1年が経ち、初めての後輩が入ってくる時期がやってきます。仕事を抱え込んでしまったり、仕事の意義が見出せずに悩むなど、新たな課題に向き合いながらさらなる成長を遂げていきます。

このように、時期ごとの課題に対して、きちんと体制を築いて対応することでつまづきを最小限に抑え、成長を後押しできるようになります。

(参考記事)パワハラと業務命令の違いは?ハラッサーにならないための方法を弁護士が解説

新入社員の退職リスクを高めてしまう要因3つ

出典:株式会社マネジメントパートナー

一方で、つまづきに対して具体的な対応をしないでいると、上の図の3つの要因によって新入社員の退職リスクを高めることになります。

こちらは筆者が新入社員の早期離職に関する相談にのる場合に注目している内容です。

■G:ギャップ

入社前イメージと入社後の現実のギャップ。つまり、「こんなはずではなかった」というものです。

■R:リレーション

職場での人間関係に悩んでいないか、もしくは「もうこの人たちとは無理だ」という諦めの境地に入ってしまっていないかというものです。

■P:プレッシャー

これはプレッシャーの有無をいっているのではなく、プレッシャーが適正なものかという意味です。重すぎても軽すぎてもリスクになります。重すぎて潰れてしまうのはもちろんですが、気をつかい過ぎて負荷を軽くしても持て余してしまい、「今の仕事が成長につながるだろうか」と不安を抱いてしまいます。

さまざまなところで実施している新人社員の退職理由についての調査を見ても、「入社前とのギャップや人間関係、仕事が自分に合っていないのではないか?」といったことがとても多いです。

先ほどお話しした「入社後に新入社員がつまづきそうなこと」にも、このGRPの要素が入っていました。そして、このGRPに最も大きな影響を与えるのが周囲の関わり方です。

新入社員の退職リスクを高めてしまう関わり方とは

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上の図のような関わり方は新入社員の退職リスクを高める可能性があります。

これらの関わり方に共通するのは、「新入社員の育成、定着に対して、周りの社員がどこか他人事である」という点です。

新人が成長、定着しないのは「人事が手を打っていないからだ」「マネージャーが責任を持ってくれないからだ」「OJTリーダーがしっかりしていないからだ」と、各々が誰か任せにしてしまっているのです。

このような組織環境のなかでは、新入社員は先行きに不安を感じてしまい、退職リスクが高まるのも無理はありません。

新入社員を育成・定着させるためには、人事や現場マネージャー、OJTリーダー、そして職場メンバーというように、周りの社員が自分の責任として関わっていく"組織全体としての取り組み"にする必要があります。

(参考記事)OJTを機能化する方法とは?配属先の社員を成長させるポイント

組織をあげて新人を育成・定着させる

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■組織をあげて取り組む際に留意したいポイント

新入社員の育成・定着に組織を挙げて取り組む際のありがちな傾向と、課題を整理します。

まず会社、人事側としては成長を「自己責任」という名の個人任せにすることなく、OJT制度や具体的な成長目標の設定、達成計画や成長を承認する場など、人が育つ環境を整備することが求められます。

ただ、環境整備を進めていくなかで噴出する課題として、マネージャーの多くがプレイングマネージャーということもあり、育てている時間がないことがあげられます。

この状況を打破するためには、新入社員だけでなく、中堅やベテラン社員、管理職候補者それぞれに育成を意図した1ランク難易度の高い仕事を割り当てて、マネージャー自身の時間を確保すると同時に、任せた仕事をとおして人材育成を両立させることが有効です。

"他人を通じて物事を成し遂げる"というマネジメントの本質に向き合って仕事の仕方を変えていきます。

■OJTリーダーの役割を明確にする

次に、新人の育成を担うOJTリーダーは、自分も忙しいなかで"やらされ感"満載です。周りのメンバーもOJTリーダー任せにして新人育成を他人事としてとらえるという状態に陥りがちです。

OJTリーダーはそもそもなぜ自分が新人指導をするのか、そして、その役割が「自分にとってどういう意味があるのか、何をどのような計画でするのか」といった新人指導における「何のために、何を、どうやって」を整理し、自分事として取り組む必要があります。

また、マネージャーと協働して職場の他メンバーにも育成目標や計画を共有し、OJTリーダーだけが新人育成に関わる"抱え込み状態"にならないよう、職場全体で新入社員に関わるという状況をつくることが欠かせません。

このように、それぞれの立場で全員がお互いに誰か任せにするのでなく、「各々自分に責任がある」と認識して活動することが必要です。

どの立場の人も「新入社員を自分の責任で育てよう」という認識で働きかけるからこそ、新入社員自身も「教えてくれるのが当たり前、育ててくれるのが当たり前」というお客様感覚ではなく、「これだけ先輩方が一丸となって育てようとしてくれている。私も自分の成長に責任を持とう!」と、自ら成長するマインドセットを持つ可能性が高まるのです。

新入社員の意識や行動傾向とその背景とは

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次に、組織をあげて新入社員の育成・定着に取り組んでいく効果を高めていくためにも、新入社員の世代が持つ意識や行動傾向とその背景について解説します。

■新入社員の世代ならではの社会背景

個人差はありますが、まず前提として中学生や高校生のときにはスマートフォンを手に入れ、オンラインやSNS上でコミュニケーションを取ることが当たり前になっています。そんななか、人間関係の構築の仕方に独特の傾向が見られます。

●過剰忖度

空気を読みすぎて、悪目立ちしたくないという心理を持っています。

ニュースなどで「炎上」という言葉を聞いたことがあると思いますが、一度炎上してしまえば、投稿を削除したところですでに投稿は拡散されていて、ネット上に半永久的に晒され続けます。これによって、自身が誰にどう見られているかわからないといった恐怖を感じているのです。

ほかにも、投稿に対しての「いいね」機能ですが、自分も「いいね」を押してもらえるようにとりあえず「いいね」を押さなければならないといった過剰忖度傾向も見られます。

●相対的自意識

他人に自分を認めてもらうことで自身の存在価値を確認するという傾向です。

誰しも自分をよく見られたい、認めてほしいといった承認欲求はあるものですが、SNSのように24時間365日他人とつながり続ける環境のなかではそういった自意識が膨らむようです。そんななかで周囲からの評価は怖いが、自分を見てほしいといった葛藤が生まれています。

●SNSでつながるヨコ社会(村社会)

個人と個人が直接つながり、仲間関係が横に広がっています。そしてSNSではご存じのとおり、会ったこともない人と簡単につながることができます。そして、そのつながりに仲間意識も持っています。

そんな世界で生きてきている若者からすると、会社組織のタテ社会に対して違和感を覚えてしまうようです。

上下関係や上司部下の関係を理解していないということではなく、上司にはお互いに協力し合える仲間として接してほしいと願っている。たとえば、どうしていいか分からないでいる部下に対し、「自分で考えろ」とか「いちいち聞いてくるな」という上司は仲間ではないと見なしてしまうようです。

●意味づけ

「それってやる意味あるんですか?」若者をマネジメントする立場にある人ならば、一度は聞いたことがあると思います。新入社員は意味付けを大切にする傾向があります。

自分たちの仕事がどのようなもので、それがお客様にどのように貢献しているか、先々のあなたのキャリアのこの部分につながるのか、といった部分を伝えてやっと腹に落ちるのです。

かつては「つべこべいわずにやりなさい!」といった指示命令に対して理不尽さは感じても、それが当たり前だと思って従うという関係が通用していました。やればそれなりのリターン(報酬、成功体験、出世など)が見込めたからです。

しかし、今のような先が見通せない時代では、従ったところでそれに見合うリターンが得られるとは限りません。だからこそ「やる意味」を求める傾向があるのです。

●時間価値

時間を奪われることにストレスを感じる傾向があります。一例として、分からないことがあると考えなしに何かとすぐネット検索する、マニュアルを概要だけ見て分かったつもりになるということがあります。

自分であれこれ考えて時間が過ぎていくよりもさっさとネットの中にある答えにたどり着いた方がいいという考え方です。

ある意味では生産性を重視しているともいえますが、何に時間をかけるべきで、何は効率化すべきかという判断基準が確立されないまま時間価値重視の傾向だけが一人歩きすると、仕事のパフォーマンスがいつまでも上がらないという本末転倒の状態を招く可能性もあります。

以上のように、新入社員の世代はヨコにつながる仲間コミュニティを基盤に、「バリバリ目立つのは嫌だけど、認められたい」という葛藤を抱え、「意味や目的の分からない無駄な仕事はしたくない」といったこだわりを持っています。また、現代社会のような先の見えない時代も相まって、キャリアについての考え方にも一定の傾向が見られます。

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上の図のような心理状態や傾向を踏まえ、どのように育成(OJT)をしていくかが重要になります。

これからの時代のOJTのありかた

新入社員の傾向やキャリア感を前提に、これからの時代におけるOJTのありかたを3点お伝えします。

■1.個々の特性を理解して活かす

新入社員全体の傾向については先に述べたとおりですが、当然一人ひとり性格も考え方も違います。「新入社員」と一括りで考えてしまうと、指導のミスマッチが起こる可能性が高いです。

慎重に物事を進める傾向のある社員や、決めたことへの実行度合いが高い社員、そして周囲とのコミュニケーションは苦手で準備が欠かせない社員などというように一人ひとりをしっかりと見たうえで、「この人のよいところはどのような場面で活かせそうか?」「どういう機会をアサインしたらいいか?」を考え、仕事の与え方やフォローの仕方を工夫することが必要です。

■2.新入社員と伴走する

一点目の個々の特性を活かすためにも重要な考え方です。

従来の「教える」「教えられる」関係はたしかに必要ですが、それだけにこだわらず指導者も一緒になってどうすれば新入社員が目標を達成できるかを考えたり、一緒に仕事の振り返りを行い、指導者である自分も共にチャレンジすると、上下間の垣根を越えてお互いに高め合う関係性を築いていくことができます。「一緒にやっていこう!」というメッセージを絶えず伝え続け、関わることが大切です。

■3.共創型コミュニケーション

上司や部下、先輩後輩の立場だと一方通行の指示や命令型のコミュニケーションになりがちです。こうしたコミュニケーションは、新入社員が苦手とするものです。こちらから相談、対話するスタンスを取るとより一層「一緒にやっている実感」を持ってもらえます。

たとえば、「この間からお願いしている、〇〇の進捗は、どう?」「今日は折り入って相談なんだけど、以前、〇〇について、興味があるといってくれていたから、来週から△△の業務にも関わってみてはと思ってね。どうかな?」といった具合にコミュニケーションをとることで、必要とされている実感、一緒に協力してやっている、自分の成長機会を考えてもらっていると思ってくれる可能性が高まります。

もちろん、これは相談なので一方的に考えを押し付けるのではなく、それに対して相手がどう思っているかを聞くことや、考えてもらう時間を与えるなどの配慮は必要です。

今回は新入社員の成長と定着を促進するために組織をあげて取り組む必要性、新入社員の傾向を踏まえたOJTのあり方についてお伝えしました。次回はさらに踏み込んで、実際の職場でOJTを機能化させるために必要なことを解説します。

【次回はこちら】OJTを機能化する方法とは?配属先の社員を成長させるポイント

[執筆者]
関 教宏
株式会社マネジメントパートナー執行役員、人材・組織開発コンサルタント。
①大学卒業後、人力車で起業。アメリカでビジネスの可能性を模索するも全く売上に繋がらず挫折。
②商売のイロハを学び直したく広告代理店の営業を経験。売上&新規開拓においてトップの実績を上げる。 一方、部下や他部門との関係性の築き方に悩み、組織運営の難しさを痛感。
上記の手痛い経験から、「どうすればビジネスで成功できるのか」「どうすれば役割を遂行する上での葛藤を乗り越えられるのか」を追求したく、株式会社マネジメントパートナーに入社。以来、コンサルタント職一筋でお客様の「変わる」に向き合い続けている。年間160日、研修コンサルを担当。「きれいごと」で終わらせず、現場の葛藤を引き出しつつ、飛躍の一歩を踏む応援を信条としている。

※当記事は「経営ノウハウの泉」の提供記事です