真山仁さん

「ハゲタカ」などの経済小説で知られる作家、真山仁さんが、6日からスタートするテレビ東京の新経済番組「ブレイクスルー 不屈なる開拓者」(土曜、午前10時半)でMCに挑戦する。世の中を変えるテクノロジーや研究に挑む人に焦点を絞り、その情熱や人間像に迫る。真山さんは「挑戦し、へこたれずに前に進む人を取り上げることで、日本ももう一度ブレイクスルーできるかもしれない」と意気込みを語る。

日本に元気がない

番組では、真山さんがMCを務め、同局の佐々木明子アナウンサーが進行。2人が現場で取材し、挑戦する人たちを深堀りしていく。

真山さんは「いろいろな人や街、企業を取材していて、日本、特に若い人に元気がない。いちばんのポイントは挑戦したいけれど挑戦の仕方がわからないということ。今は、結果がまず大事。例えばテレビ番組も、なぜ成功したのかさかのぼるものが多いけれど、今の日本に必要なのは挑戦なんです」と説明する。

失敗を否定的にとらえ、挑戦しづらい社会になったと感じている。「日本に成功が減ってきたのは、『成功しなさい』と言われるから。そうじゃなくて、バッターボックスに立って『バットを振ってきなさい』と(言うべきだ)。昔は上司が『失敗をカバーしてやる』と言っていましたが、今はそんな上司はいません。上司こそ大変で、『がんばれ』というとパワハラと言われてしまう。そんな息苦しさがなくなると、自然に結果が出るんじゃないか」

番組では、米企業家のイーロン・マスクのような成功者ではなく、市井の挑戦者を取り上げる。「超有名人が出てきて、『失敗を恐れません』と言っても、『こんなに結果を出している人に聞いてもしょうがない』と思うじゃないですか。どこにでもいる人に聞くことで、『自分にもできるんじゃないか』という気持ちをあおりたい」。

初回放送となる6日は、光半導体の実現に向け、開発を行うNTTを扱った。光半導体が作る未来や成功までの課題だけでなく、真山さんならではの視点で、開発リーダーの信念や人生観まで踏み込み、素の部分を引き出す。自身の姿勢を「寄り添うのではなく、エールを送るけれどじっと見つめる」と語り、「一番知りたいのはなんで戦うのかということ。心の中を丸裸にするような取材をお見せしたい」。

「小説家としてはまだダメ」

新聞記者を経て平成16年、経済小説「ハゲタカ」でデビュー。鋭い取材力に基づき、地熱発電や東日本大震災など様々な社会課題をテーマにした小説を発表してきた。「ハゲタカで知名度を上げて一部に熱狂的なファンがいるんですけれど、随分前の話です。小説家としてはまだダメですよ。謙遜じゃないです」と苦笑する。

「news23」(TBS系)をはじめ、テレビでも活躍するが、「どちらかというと世の中にモノ申したい小説を書いてきたんです。たくさん売れて、私の小説で世の中が変わっていく実感があれば、たぶんずっと黙々と小説を書いていたんですけれど、一部から『小説の中に逃げて社会に問題提起しないのか』と言われました。だったら、リスクをとってでも、『本来こういうことが起きるんじゃないか』という機会があれば挑みましょう、と。ただ、テレビに出るとその分原稿が書けなくなるので、(ブレイクスルーが)毎週ってのはだいぶ抵抗がありました」と率直だ。

「ブレイクスルー」でMCを務める真山仁さんと佐々木明子アナウンサー

それでも、番組にかける思いは強い。取材での出会いや感動が自分を変えるきっかけになると感じている。「今回、MCなんですけれど、ひたすら取材している。取材現場を見せるちょっと珍しい番組。人間、歳をとってくると自分の価値観を変えたくない。資料を読んで、成功するポイントはこことここにあるのかなと思う。でも、実際に取材に行くと、無邪気に話をされて、新鮮な驚きがある」

61歳、今年で作家デビュー20周年を迎えるベテランだが、「そろそろマンネリ化を警戒しているんです。この番組をこのまま続けていけば、私の中でパラダイムシフトが起きて、『(自分は)何も知らなかったかもしれない』とか、若者に『がんばれ』って言っているけれど、『お前もな』って言われたりするのかもしれない」。自身のブレイクスルーを予感している。

「開拓者の思い、あぶりだして」

「ブレイクスルー」が放送されるのは土曜日の午前10時半。他局は、「王様のブランチ」(TBS系)など、ゆったりした気分で視聴できる休日らしい番組が並ぶ。そこに硬派な経済番組をぶつける形だ。テレビ東京報道局経済番組センターの吉田広プロデューサーは、「土曜の午前中にそぐわないくらい、骨太の番組を作っていきたい」と語る。

真山さんをMCに起用したが、「いつもすごい取材をして生々しいくらいの小説を書かれている。小説家ならではの言葉で、主人公である開拓者たちの思いがあぶり出されていくと思いました」と説明する。

実際、取材の現場では、メディアの記者とは違う目線で物事を見ていると感じた。「こちらは、企業を取材したくなるんですけれど、真山さんは『これは人物を深堀する番組だ』とおっしゃっている。忖度のない人なので、真山さんの発言に取材対象者が衝撃を受けて、表情を変えて前向きになるということがありました。人間力なんでしょうね」と絶賛する。

経済ドキュメンタリーの「ガイアの夜明け」、経済トーク番組「カンブリア宮殿」に続く、3本目の経済番組に育てるのが目標だ。(油原聡子)