幡随院長兵衛に扮装した写真の前で取材に応じる市川團十郎 (水沼啓子撮影)

東京・歌舞伎座で5月2日に開幕する「團菊祭五月大歌舞伎」で、十三代目市川團十郎(46)は昼の部で先代の亡き父(平成25年2月死去)から最後に教わった「極付幡随長兵衛(きわめつきばんずいちょうべえ)」で俠客、長兵衛を演じる。

25年1月の浅草公会堂での公演(当時、市川海老蔵)で長兵衛を演じるに当たり、前年末に稽古のDVDを父の病室に送って見てもらったところ、父から手紙が送られてきたという。

「手紙の中で、私がやっている幡随長兵衛への思いとか、もっと周りもこういうふうにしてもらったらいいというようなことを、丁寧に書いてくれた。あまり褒めることはしない父だったが、その時は珍しく『悪くないんじゃないのか』と。その時に父が見て悪くないと思ってくれたように、そうできるよう頑張りたいと思う」

長兵衛は「怖がって逃げたとあっちゃあ名折れになる。人は一代、名は末代」とたんかを切って、殺されるのを承知で敵対する旗本の屋敷に単身乗り込む男気あふれる大親分だ。

「死ぬ覚悟を持って家を出るところは、恐らく長兵衛の孤高の精神を表現しているのでは。お客さまには、長兵衛の孤高の覚悟というものを意識して届けたい」。さらに「いまの日本の男子が忘れたものが長兵衛には集まっている。男の美学とか覚悟とか、考え方とか、みな忘れがちだ。今回、ぜひ男子にも見に来てほしい」と訴えた。

團菊祭は明治時代に活躍した名優、九代目團十郎と五代目尾上菊五郎の偉業を顕彰するために、毎年5月に歌舞伎座の恒例興行として上演されてきた。

今回、團十郎はほかに昨年死去した四代目市川左團次の一年祭追善狂言として左團次の長男、市川男女蔵(56)が主演する「毛抜」で後見(役者の演技を手助けする人)を、「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」で妖術使いの敵役、仁木弾正を勤める。

26日まで。問い合わせは、チケットホン松竹(0570・000・489)。(水沼啓子)