福岡県宗像市の元毎日新聞記者、大垣堅太郎さん(83)が、戦乱で荒廃した鎌倉時代初期に安寧を願い、全ての経典(一切経)を書写した宗像大社(宗像市)の社僧、色定(しきじょう)法師(1159~1242年)を独白体で描いた小説「宗像大社の社僧 色定法師 生涯40年かけて一切経五千巻を書写」を出版した。大垣さんは「知られざる不屈の人を、一部創作を交え分かりやすく紹介しました」と話している。
色定法師は保元、平治の乱で荒廃した平安時代末期、神仏習合で宗像大社にあった神宮寺の社僧の子として生まれた。後に釈迦が入滅し教えが廃れる「末法の世」や源平合戦も重なり、世の平穏を強く願って29歳で一切経の書写を始めた。70歳までに一人で約5000巻を書写し、このうち約4300巻が宗像大社・神宝館に国指定文化財として収蔵されている。
大垣さんは1963年に毎日新聞社に入社し、西部本社学芸課長や経済部長を務め、退職後は「新修 宗像市史」の編集などに携わった。「海の道むなかた館」(宗像市)で地域学芸員のボランティアをしていた約10年前、九州歴史資料館長などを務めた田村圓澄・九大名誉教授(故人)が講演で「色定法師は空海にも劣らぬ高僧。もっと全国に知られてもいい」と話したのを聴いて興味を持ち、6年前から執筆を始めたという。
著書では、法師が原本を求め京都まで旅する間、首からかけた画板のような物に原本と紙を広げ書写した逸話を紹介。また臨済宗の開祖、栄西が創建した聖福寺(福岡市博多区)で学ぶ若い僧に「仏門で真の道を求めることは容易ではない」と述べる架空の場面などを描き、法師のひたむきな人柄を際立たせている。
櫂歌(とうか)書房(福岡市南区)発行で一部1430円。問い合わせは同社(092・511・8111)。【荒木俊雄】
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