世界最大級の紳士服の展示会、ピッティ・ウオモが11日から14日までイタリア・フィレンツェで開催され、2025年春夏シーズンに向けた新作が各国のから集まった。この催しは、後に途切れることなくミラノ→パリへと続く欧州メンズコレクションのスタートでもある。
メイン会場は市内中心部にほど近いバッソ要塞(ようさい)。参加790ブランドの多くがブースを設置して洋服を並べ、プレス関係者やバイヤーを迎える。ピッティは毎回大物デザイナーを招いてショーを開催しており、今回はマリーン・セル、プランC、ポール・スミスなどが参加した。
マリーン・セル
なかでも最も注目すべきはマリーン・セルのショーだろう。ブランド設立2年目の2017年に、若手デザイナーの登竜門であるLVMHプライズを獲得。数多くの女性ファンを擁し、モード界の若き旗手としてパリ・ファッションウィークで発表を続けてきたが、今回初めて場所を移し、12日夜にショーを開いた。
ピッティといえば紳士服の祭典だが、男女混成のショーで構成。同日朝に取材に応じたセルは「私にとって、メンズの服だけを見せるのは難しかった」と語った。メインは、ブランドの象徴ともいえる三日月マークをプリントであしらったレザーアイテムの数々。メンズは主にテーラードで、グラデーションがかかったレッドやパープル、ブラウンとカラー展開も豊富で完成度も高かったが、「実はドレープのかかったドレスについては、昨日仕上げた」と明かした。
「手作業で作る花飾りも見せどころ」とセル。ショーで登場したのは、コサージュが多数つけられた白いロングコートで、ボトムスをショート丈で隠して一層引き立てた。
ショーは、会場となった広大な庭に夕暮れがさしかかる幻想的な雰囲気の中で始まった。ピッティの主催者からはこれまでにも参加を打診されていたというが、パリを離れてショーをしたいと思ったのは今回が初めてだった。「数カ月前、この邸宅(の庭)にたどり着いた時、アメージング!と思った」と、会場もそのきっかけの一つだったという。
かつては「イタリアン・クラシコのお祭り」とも称されたピッティ・ウオモにはテーラード系のバイヤーやスーツ雑誌の編集者などが集うのが恒例だ。ピッティの最終日はミラノ・メンズの初日でもあり、ミラノ・メンズの最終日はパリ・メンズの初日でもある。WWD JAPANや繊研新聞など一部の専門メディアの記者を除き、「フィレンツェからパリまで」を通して見る人は少ない。大手セレクトショップのバイヤーもスーツ系の担当とモード系の担当はハッキリと分かれており、スーツ系は「フィレンツェからミラノまで」、モード系は「ミラノからパリまで」が一般的だ。
ところが、今回のフィレンツェでは、「普段はパリにしか来ない人」の顔をちらほら見かけた(欧州のファッションウィークを訪れる人は割と固定化されており、国籍が違ってもお互いに顔見知りだ)。うち何人かは「マリーン・セルのショーがあるから来た」とのこと。裏を返せば彼女にはそれだけ力があり、注目度の高いデザイナーだということだ。
プランC
初日の11日にはプランCのプレゼンテーションがあった。人気ブランド・マルニの創業者の娘カロリーナ・カスティリオーニが手がけるブランドで、今回が初めてのメンズコレクションの発表だ。10年にわたりマルニでも重要なポジションにいた彼女には、ブランド創設直後の2018年秋にインタビューをしたことがある。その際、「メンズの服も作って欲しい」と話したところ、「女性もので、サイズの大きなものを着たらどう?」と返された。6年の時を経て心境が変化したのだろう。
新作はナチュラル系の色をベースにしながら、鮮やかなアクセントをつかったり、淡い寒色系でまとめたり。スポーティーテイストを取り入れた服も多かったが、どれも日常のワードローブとしても、ここぞという時の服としても機能しそうだ。発表形式はランウェーショーではなく、コンテンポラリーダンスでのプレゼンテーションだった。(編集委員・後藤洋平)
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