放送中のドラマ『アンチヒーロー』。“共同脚本”だからこその綿密な作り込みが話題となっている。山本奈奈氏、宮本勇人氏、李正美氏、福田哲平氏という4人の脚本家チームが編成されてから、脱稿までにおよそ1年の月日を要した渾身作だ。
途方もない時間を掛けた打ち合わせで出たアイディアを集結させ、それをさらにブラッシュアップしたからこそ生まれた名シーンとは。“共同脚本”を担当した4人の目に本作はどう映っているのか。脚本だけではなく、作品全体に込められたそれぞれの熱い思いを、飯田和孝プロデューサーの話も交えながら深掘りしていく。

あらゆる可能性を考慮した鬼門の3話

各話で長谷川博己演じる主人公の明墨正樹弁護士が請け負う弁護内容を描いた横軸と、全話通して徐々に明らかになっていく糸井一家殺人事件という縦軸、双方向が絡み合う形で物語が進んでいく本作。もちろん物語をより面白くするためのものだが、台本を作る上ではそれが想像以上に大変だったと語る4人。「明墨の目的を少しずつ明かしていかなければならないので、縦軸の内容を各話でどのくらい明かしていくのかという話し合いは繰り返し行われました。1回入れてみてやめることはもちろんですが、これでいいと思って進めた先で、やっぱり序盤で入れておいた方がいいという内容が出てきたり…進んでは戻る作業の連続でした」と、縦軸を構築する上での苦労を明かす山本氏は、「どれだけ見せるか」が鍵になったと語る。

その中でも、スタッフ・キャスト間で様々な意見が出たのが、「第3話で明墨が元検察官だということが発覚するシーン」だと福田氏。そういった反応を受け、4人は明墨の過去を明らかにするパターンと、そうでないパターン、両方の案を考え直したという。だが、第4話の冒頭で北村匠海演じる弁護士・赤峰柊斗が拘置所に向かう明墨を追うシーンを鑑みると、やはり明かすべきだという結論に至ったという。
赤峰が知りたかった明墨の過去だが、弁護士である赤峰であれば調べるのは造作もないこと。そういった客観事実も踏まえ、飯田プロデューサーは「仰々しく“実は…”という展開ではなく、大島優子さん演じるパラリーガルの白木凛がサラッと言うくらいが自然だと思った」とその経緯を教えてくれた。

鬼門は第3話にありとばかりに話は続く。第3話といえば明墨が国会議員の息子が被告人となった傷害事件の弁護をする回だが、第9話時点までで明墨は唯一の黒星を喫している。これについて第3話をメインで担当していた李氏は「最後に明墨が負けるけれど、それも計算だったという…。これまでにあまりないパターンで、とても難しかったです」と胸の内を明かす。負けない方がいいという案と、負けた方がいいという案だけでなく、「犯人が本当にやったのか、やっていないのかと、様々なアイディアがありました。無罪、有罪どちらがいいかも含め」と福田氏。さらに飯田プロデューサーが「明墨が負けを認めるというのは必要だった」と言う通り、以降の展開を見れば “試合に負けて勝負に勝つ”を体現したストーリーとなった。

賛否両論ある中、祈る気持ちで観た第1話…

ここでひとつ頭に入れておきたいのが、本作の最終話が出来上がったのは放送が始まって間もない4月末ということ。正式に台本化する前の「準備稿」と呼ばれるものは既に10話分完成していたそうだが、なぜ「決定稿」(=台本)にならなかったのか? それについて飯田プロデューサーは、「長谷川さんと明墨の在り方を打ち合わせしたかったんです」と言う。さらに、「実際に演じてどう思ったか、最後の終わり方をどうするかといった内容をお話ししました」とその詳細を語った。

そういった経緯も踏まえ、李氏は「縦軸の物語をみんなで最初に話し合っているので、共通した歴史みたいなものはあるのですが、その中で違う捉え方ができるのではないかと思いました」と最終回に込めた思いを語り、山本氏も「最終回前に全話観直していただきたいのですが、特に第2話はぜひ観て欲しい!」と力強く続けた。
李氏が「最終回はそれぞれのキャラクターが着地する」と太鼓判を押すと、福田氏も「視聴者の皆さんが観たいと思っているものが全部詰め込まれている」と重ねて自信を滲ませる。そして最後に話を伺おうと宮本氏に視線を向けると、「言われたいことを全部言われてしまった(笑)」。
自分たちの作り上げた作品について、目を輝かせながらその思いを語り合う脚本家チームは、まさにこのドラマの“ヒーロー”だ。

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