那覇市出身の俳優で劇団青年座に所属する津嘉山正種が作・演出した一人朗読劇「10カウント ある老ボクサーの夢」(主催・劇団青年座、沖縄タイムス社、演出協力・菊地一浩)が7月5~7日、那覇市久茂地のタイムスホールで開かれる。2010年に東京・青年座劇場で初演された年老いた元ボクサーと病気の少年の魂の交流を描いたドラマ。津嘉山が18年から上演するひとり語りシリーズ「沖縄の魂」の第5弾で、最終章となる。「殺伐としたこの時代に、見返りを求めない無償の愛を感じ取ってほしい」と来場を呼びかける。(小笠原大介東京通信員)

 津嘉山はシリーズ最終章に向け、「半端なものはやれない」と試行錯誤を続ける中、20代後半に出合った戯曲を思い出したという。

 希望を胸に上京し、劇団に所属するも役はなく、アルバイトでつなぐ日々。「自分は才能がない。もう辞めよう」と考えていた時、劇団青年座の創立メンバーの1人で女優の故山岡久乃さんから「こんな作品があるがどうか」と本を手渡された。ある若手ボクサーの物語だった。無我夢中で飛びつき、役作りのためにボクシングジムへ入会。しばらくして月謝を払おうとすると「会費は既に1年分もらっている」と。山岡さんだった。

 「『ここで諦めるな』と言われた気がした。俳優として救われた」。温かい心意気に心を揺さぶられ、1年間一日も休まず通い続けた。

 もろもろの事情により、その作品を演じることはなかったが、30代、40代とさまざまな役に恵まれるようになってからもずっと心残りがあり、「このままではいけない。何とか区切りをつけたい」と再び本を手にした。この時、66歳。年老いた元ボクサーの物語に書き直した。夢と現実、過去と現在と、自らの人生も投影して描き、作品は40年の時を経て日の目を見た。

 第1弾「人類館」から始まり、シリーズでは差別や戦争をテーマとしてきた。世界中で「報復」「復讐(ふくしゅう)」という言葉が飛び交う昨今、幼少期に母親から教えられた「人を思いやる心」、そして俳優としての道をつないでくれた山岡さんの「あふれる優しさ」への感謝を胸に、本作を最終章に据えた。

 初演から14年。80歳を迎え、「正直、あの作品をやれるのか」とためらいはあった。それでも「1本1本、自分が納得したものを演じる。これが最後の作品になったとしても、それは天命」と覚悟を決めた。津嘉山が全身全霊を込めるシリーズの集大成。必見の作品だ。

来月5~7日上演タイムスホール

 朗読劇「津嘉山正種ひとり語り『10カウント ある老ボクサーの夢』」は那覇市久茂地のタイムスホールで上演。開演時間は7月5日が午後7時、6日と7日が午後2時。問い合わせは沖縄タイムス社事業局文化事業本部、電話098(860)3588(平日午前10時~午後6時)。

(写図説明)作品への思いを語る津嘉山正種=5月29日、東京・青年座(小笠原大介東京通信員撮影)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。