地元の伝統文化を守ろうと、中学生が奮闘している。国の重要無形民俗文化財に指定されている「安乗(あのり)の人形芝居」を継承していくために活動する三重県志摩市立東海中学校(志摩市阿児(あご)町甲賀)の郷土芸能クラブは9月に予定されている安乗神社の秋季例大祭での発表を目標に練習に取り組んでいる。
クラブには21人が在籍している。安乗神社のある志摩市阿児町安乗地区の住民による安乗人形芝居保存会(西村勝和会長)の指導の下、5月22日から始まり、毎週水曜日の放課後に練習している。
取り組んでいる演目は「鎌倉三代記 三浦之助母別れの段」。戦場で負傷し、帰郷した三浦之助に再び戦場に戻れと説く母と、その母を看病し、最期をみとってとひきとめる敵方の大将の娘である時姫の間で迷う三浦之助の場面が演じられる。
人形遣いのほか、三味線、語りの役割ごとに分かれて練習は行われる。人形遣いの担当は国立文楽劇場で上演された記録映像を手本に、保存会のメンバーに指導されながら稽古(けいこ)した。人形は1体を3人で扱い、「人形を隠さないよう、立つ位置に気をつけて」とアドバイスも受け、頭(かしら)の上げ下げや向きで喜怒哀楽を表現しようとしていた。
三味線の担当も専門家から熱心な指導を受けていた。見守っていた保存会の会員からは「良くなっている」と上達ぶりに声がかけられていた。
練習が終わると、保存会からは「できることが増えてきた。このまま頑張ってほしい」とエールが送られた。2人だけの3年生で、ともに安乗地区に住む平尾珠蘭(じゅらん)さん(14)は「祭りを盛り上げ、ミス無く演じたい」、仲野夏心(なつみ)さん(14)は「子どものころから親しんできたお祭り。演じられるのはうれしい」とそれぞれ秋に向けて意気込みが増していた。
安乗の人形芝居は、志摩国の領主で豊臣秀吉に仕え、水軍を従えて活躍した九鬼嘉隆が朝鮮出兵での戦功のお礼参りに訪れた際に、村人に人形芝居を毎年行うことを許したのが始まりと言われ、400年以上の歴史がある。1925年の上演を最後に途絶えたが、51年に保存会が結成され、復活すると、55年に国の重要無形民俗文化財に指定された。
78年には後継者育成を目的に旧安乗中学校に文楽クラブが創設され、2018年の学校再編で統合された東海中で郷土芸能クラブとして引き継がれた。今年は入部した1年生が安乗地区5人を含む15人と多く、活気づいている。部員募集に小学校への出前授業をするなど活動を続ける保存会の世話役、尾崎寿美さん(71)は「皆で舞台を協力して作り上げることを学び、伝統ある人形芝居に参加した経験が、地元への愛着、誇りになってくれると思います」と期待した。
クラブの21人のうち、安乗地区以外の生徒は12人で、地区にとらわれず部員は増えている。尾崎さんは「自分の地区の祭りへ興味を持ってもらうきっかけになるのでは」と話している。【大竹禎之】
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