人間を模して作られた人形が人に操られて動き出すや、人間以上の豊かな喜怒哀楽や激しい情念を漂わせるときがある。文楽を見ながらいつも不思議な感覚に浸っていたが、月曜夜にNHKのEテレで再放送が始まった名作人形劇「人形歴史スペクタクル 平家物語」(平成5年放送開始)を見て、ますますその「魔力」にはまった。

NHKの人形劇シリーズは昭和28年、九尾の狐の伝説を題材にした「玉藻前(たまものまえ)」から始まった。「ひょっこりひょうたん島」や「新八犬伝」など人気作が生まれる中で、アニメーション作家で人形美術家の川本喜八郎さん(1925~2010年)が「三国志」に続いて手掛けたのが「平家物語」だった。

何といっても川本さんの人形が素晴らしい。平清盛だけでも青年期から晩年まで6体あるという人形は、全56話で総数400体以上。高さ約60センチの人形たちは全て表情が異なり、瞳がギロリと横に動いてしたたかさを醸したり、伏し目になって悲しみを表現したりするものもある。その顔立ちや目の動き、衣装の細部に至るまでキャラクターの性格や宿命が凝縮された、見事な芸術作品だ。

ここに魂を入れるのが人形を操演する人たちで、1体を1人で操っている。3人で遣う文楽ほど滑らかな動きではないが、首や体の傾きで顔に陰影がつき、角度によって笑ったり泣いたり、さまざまな表情が生まれる。操演者は映り込まないように、人形の体や両手から伸びた棒を使って、自分の頭より高い位置で操っているというから、熟練の芸に驚く。

「おとなの人形劇」とうたうだけあって、若い清盛が自身の出自を疑って悩んだり、親友の遠藤盛遠(後の文覚=もんがく)が人妻に横恋慕した挙げ句に誤って殺害、逃走したりと、しょっぱなから怒濤の展開。風間杜夫や紺野美沙子、石橋蓮司、森本レオら豪華声優陣も大熱演で、この先も楽しみでたまらない。

人間の俳優とは違い、人形には生身の人生がない。ただその役の人生を生きるためだけの存在として生み出され、役が死ねば魂の依り代であった人形も木偶(でく)に戻る。その痛々しいほど純粋で刹那的な命の輝きに彩られているからこそ、人形が演じるドラマはときに、人間以上に心に迫るのかもしれない。(佐)

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