トレンドをたどる 西田堅一・動画ディレクター
「あらすじ」をどこまで伝えるかというのは昔から議論されてきた課題だ。説明し過ぎてしまうと作品を見てもらえなくなる。一方、作品のおもしろい部分を隠して説明を省くと引っ掛かりがなくなり、これもまた、見てもらえなくなる。動画に限らず、ネットニュースの見出しからソーシャルゲームの広告まで、あらゆるコンテンツ共通の課題と言ってもいい。
一般的に「あらすじ」は作品やキャラクター、出演者などの知名度が高いほど短くできる。ヒット作の続編などは世界観の説明を省くことができるし、あらすじがあいまいでも前作からの期待値があるので、そのまま通せる。
しかし、最近ある映画の「あらすじ」が、その正反対の手法でSNSを中心に注目を集めているのを見た。それは6月公開のアンパンマンの新作映画だ。
映画HPの「あらすじ」には、ばいきんまんが絵本に吸い込まれること、その先で森の妖精と出会うこと、森でゾウが大暴れしていること、最初は嫌がりながらばいきんまんが立ち向かうこと、絶体絶命のピンチに陥ったばいきんまんが「アンパンマンを呼んでこい」と妖精に伝えることなど、「これでほぼすべてではないか」と思ってしまうほど、ストーリーが詳細に書かれている。
にもかかわらず、これを読んだ人が映画を見たいと思う理由は、わかっていても見たいシーンが書かれているからだろう。ばいきんまんが最大のライバルであるアンパンマンを実は信頼しているとわかる一言――。むしろ大人のほうがグッとくるであろう、そのシーンは通常のあらすじでは伝わらない。
SNSでコンテンツを拡散させることの重要性が増す中、「わかっていても見たいシーン」をいかに作り出せるか、そして、思い切って説明してしまう勇気が大切だと、今回の事例をみて感じた。(西田堅一)
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