2018年に二宮和也さん主演で放送された日曜劇場『ブラックペアン』待望の続編が、7月7日、再びスタートを切る。新シーズンで二宮さんが演じるのは、天才的な縫合技術を持つ孤高の外科医・渡海征司郎ではなく、全く別の人物・天城雪彦。世界的天才外科医でありながら、“人も金をももてあそぶ悪魔”、天城がベールを脱ぐ。

シーズン1から二宮さんとタッグを組むのは、なじみある主要キャスト陣をはじめ、その手腕で前作をヒットに導いた名プロデューサー・伊與田英徳さん。高視聴率ドラマの続編が封を切られるまでの裏側や「ドラマ職人」としての神髄などを聞いた。

原作者・海堂尊さんからの“呼び出し”から6年

——前シリーズの放映から6年を経ての復活となります。シーズン2に至るまではどのような道のりだったのでしょうか?

これはすでにいろいろなところでもお話しているのですが、打ち上げの時に原作者の海堂(尊)先生に「ちょっといいかな」と裏の方に連れて行かれたんです。「何かまずいことをして怒られるのかな……」と思っていたら、「伊與田君、よかった」と言っていただき、「パート2をぜひやってほしい」と。ただ、ストーリー上もう渡海先生は出て来ないので、「先生、書いてくれるんですか?」と言ったら、「いや、もう渡海はこれでおしまい」とおっしゃられて。「じゃあどうするんですか?」と聞いたら、「天城というキャラクターがいて、それを二宮君がやれると面白いんだけど」というところからスタートしました。

——続編までの6年はいかがでしたか?

大変うれしい話からスタートしてはいるのですが、いろんなことがありました。一つ大きく言えるのは、コロナ禍でタイミングを逸したというのはあります。それも含めていろいろな要素が絡み合って6年経ってしまいましたが、逆に言うと、6年経ってからできてよかったなと思うところもあります。皆さん、何というか一周しているんですよね。シーズン1が終了して、そのまま勢いでやるというよりは、みんなが一回熟成して、大人になってから、というのが前作とはまた違うなと。続編の面白みもあるけど、もう一つ「次のステップ」に行った人たちのドラマを見られると思うので、結果的にドラマとしてはとてもいい6年だったかなとは思います。待っていただいた方には申し訳ないなという気持ちもあるので、作品を見て良かったなと思っていただけることで恩返しできるように、頑張れたらなと思っています。

——6年の間に、二宮さんの「成熟」味も感じられましたか?

二宮さんもさまざまな経験を積まれたのだと思います。役者さんとして活躍されていて、ハリウッドの映画にも出ていて、もちろん実力もある。それでもいつも何か新しい役にチャレンジしたいという思いを感じます。シーズン2に対しても、勢いでやるというよりは、何か一つ噛みしめた上で、どういう風に演じていくんだみたいな姿勢を感じましたね。

役者・二宮さんの瞬発力に長けた魅力

——伊與田さんの思う二宮さんの魅力とはどのようなところでしょうか?

彼の魅力は何だろうな……。とにかく芝居がうまい。これはもう誰もが認めるし、でも芝居がうまいからといって、うまい人がみんなスターになれるわけではない。持っている「ひらめき」的な面白さというか、台本に書かれている行間をうまくくみ取って、くみ取るだけじゃなくて時には裏切るんですよね。きっと感覚ですね。もちろん僕らの見えないところで努力はしているんだと思いますが、一瞬の判断力とも言うのか、その瞬発力に驚かされるんです。一緒にやっていると、「おっ!」て思うんですよね。「なるほど! 面白いっ!」みたいな。予定調和ではないですよね。かと言って人を嫌な気分にさせるような裏切りではなくて。面白い裏切りというか、意外性みたいなものを持っているところが、彼の魅力かなと思います。

——その魅力は6年経っても変わりませんか?

そうですね。変わりませんね。磨きがかかったと言ってもいいかもしれないです。ただ、年齢とともに重みみたいなものが加わったように思います。例えばドラマでは、座長として自分が引っ張っていかなきゃいけないんだというようなものが自然に出ているように感じます。彼が「引っ張っているぞ」と言っているわけではないですし、「ほら付いてこいよ」というタイプでもないので、「自然体でそこにいる」っていうところが彼の魅力ですよね。飄々としながらも。彼にはこなせないことはない気がします。

——ドラマの魅力や見どころについても伺います。シーズン1と2の違いや見どころを教えてください。

全く違う人物だとしても、ぶっちゃけて言ってしまえば、両方とも二宮さんが演じるわけで、僕はその裏側を垣間見ているので、「と言ってもねえ」と、完全に別人を演じきるのは難しいのでなないかという気持ちもゼロではなかったんです。でもこれが、全く別人に見えるんです。それがなかなか面白い。そのほかのキャストはほぼ一緒で、竹内(涼真)さん、葵(わかな)さん、小泉(孝太郎)さん、内野(聖陽)さんたちはそのままいて、そこに新しい人が入ってきて、引っかき回されながら、命の大切さやお金の大切さみたいなことを、教科書のようなものではなく、いろんな代償を払いながらも得ていくというような醍醐味がありますよね。視聴者の方も同じように、それに翻弄されていただけたらと思います。

「ゼロ」から作る続編の面白さ

——「ドラマ職人」としてのプロデューサーという仕事についてお聞きします。この6年、苦境やピンチはありましたか?

自分はいろいろやってきて、それなりに、世間的にはうまくいっている方だとは思うんですよね、きっと。自分でもラッキーだなと思っていて。なので、ここまでやらせていただいたから、次の新しい企画とかも簡単に通るのではないかと、もうちょっと楽に、ラッキーに進むかなと思っていたら、全くそうでもない。毎回必ずピンチは訪れるというか、楽勝なことはないな、というのをこの6年でも経験してきました。

——プロデューサーとして、長いキャリアの中でどのような苦境を超えられてきたのでしょうか?

入社当時は企画が通らなくて、例えば100本ぐらい企画書を出しても通らないみたいなこともありました。中身が悪いのかどうかとか吟味して、いろいろなことを一個一個クリアして。

今になって分かってきたことなんですが、企画書がおもしろくないと企画は通らないのですが、一方で、企画書が面白ければ通るというわけでもないんですよね。プロデューサーをさせてもらえるということは、かなりの金額を預かって番組をつくるということで、いろんなことの総合力が問われる職業。会社員なので守られているところもいっぱいありますが、作品ごとに一つの会社を作って経営していくみたいなところもあるので、年とともに総合的な判断が必要なんだなということを知りました。でも、自分が50を過ぎてそういうことも段々と理解できてきたので、いろいろと順風満帆に行くかなと思ったら、そうでもない。また次なるステップがあるんだなと感じているのが、今の正直なところです。

「底力見せたい」 日本のエンタメ業界に懸ける思い

——プロデューサーとして「これだけは譲れない、変えられないもの」を教えてください。

一番は、皆さんに楽しんでいただきたいと思っています。それが前提ではあるのですが、その前に自分が「これは本当に面白いの?」とも考えます。コンプライアンスなども重視されるようになり、時間や予算のこともあって流されるような気持ちになりがちな時代でもあると思います。人に迷惑をかけてでもいいものを作ればいい、という時代も確かにありましたが、今はもっと成熟して、次のステップに来ていると思うので、その中でも自分が本当に面白いと思えるのかを、心に聞いています。

——時代が変わる中で意識の変化などもありましたか?

シーズン1の時から比べても、6年前とはスタッフの働き方も明らかに違います。その間に、海外のエンタメが日本に入ってきて、そういうのもひっくるめて、やっぱりテレビ業界を含め日本のエンタメ業界も頑張って底力を見せないといけないところに来ているのかなとは思います。僕が今50代後半に入って、ちょうどそういうことを見渡せる年齢にいるということもあると思います。才能のある若い方にもどんどん引っ張っていっていただきたいし、僕らみたいに長年培った知恵や経験を生かしながらやっていく人もいる中で、日本も頑張れたらいいなと思います。

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