世界からオーケストラの音が消えたコロナ禍。その苦境を乗り越え、大阪フィルハーモニー交響楽団がマーラーの交響曲第2番「復活」を響かせる。第62回大阪国際フェスティバル2024の8月公演は、指揮者・尾高忠明にとっても、自身の「封印」を17年ぶりに解く特別なステージになるという。

大阪フィルハーモニー交響楽団を指揮する尾高忠明=大阪市西成区、滝沢美穂子撮影

 マーラーが約6年の月日をかけ、1894年に完成させた交響曲第2番「復活」は、全5楽章からなる大曲だ。演奏時間は80分に及ぶ。大規模な編成による演奏に、独唱や合唱も加わり、人間の死からの復活をダイナミックに描く。

 「マーラーの葛藤が詰め込まれたあまりにすごい作品なので、怖くなって」

 尾高は2007年に札幌交響楽団で指揮したのを最後に、この曲を頼まれても断り続けてきた。頻繁には向き合えない。それほど、覚悟のいる楽曲だという。

 その壮大さや規模の大きさから、オーケストラの記念公演など節目で演奏されることが多い。大阪フィルにとっても特別な演目だ。

 大阪フィル創設者の朝比奈隆の指揮で1969年に初演。それ以降、創立40周年記念演奏会や、大植英次の音楽監督就任披露公演などで演奏してきた。前回は11年前の大阪国際フェスティバル。大阪フィルが定期演奏会を開くフェスティバルホールのリニューアルを祝った。

大阪フィルによる「復活」の主な演奏記録

 その後、大阪フィルを含む世界のオーケストラは、新型コロナウイルスの感染拡大によって、演奏活動の中止を余儀なくされるという苦しみを味わった。今回は周年記念には当たらないが、大阪フィルは「コロナ禍からの復活」という思いを込め、この曲を選んだという。

 尾高にとって、印象に残っている出来事がある。

大阪フィルハーモニー交響楽団を指揮する尾高忠明=大阪市西成区、滝沢美穂子撮影

 初めての緊急事態宣言が解除された直後の20年6月。小規模な演奏会を開くため、久しぶりに団員が顔を合わせた。それぞれ個人練習しかできなかった期間を経て、音を合わせたその瞬間。「音楽って、こんなに素晴らしいのか」。みんなで演奏できるうれしさが込み上げてきた。

 そして、観客からもらった、いつもより少し小さな拍手のありがたさ。音楽を奏でる原点を思い起こさせてくれた。「コロナの災いは、教訓としてずっと覚えているべきだと思います」

 コロナ禍前の状況に戻りつつある今年、尾高が音楽監督になって7年目を迎える。大阪フィルと積み重ねた演奏は、ますます成熟してきた。

 「いい流れに持っていこうという気持ちをみんなが持っている」。そんな今こそ、「封印を解く一番いいチャンス」だと考えた。実に17年ぶりとなる大曲の指揮を決断した。

グスタフ・マーラーと交響曲第2番「復活」

 「復活」は、壮絶な第1楽章で悲劇的な人生が示され、朗らかな第2楽章で幸福な時間を振り返る。第3楽章で現実世界に戻り、第4楽章で神への信仰心をアルト(今回はメゾソプラノ)が独唱する。

 そして第5楽章で再び嵐が訪れる。静寂の後、ついに登場するコーラスが「おまえはよみがえる」と歌い出し、死者は「復活」を果たす。

 「そこは、振っていて涙が出ない日はない。曲を書いたとき、マーラーに神が降りてきていたのかなと感じます」

 「大フィルサウンド」とも呼ばれる、朝比奈とともに磨いたダイナミックな音色。それは「復活」のような大曲の演奏に向いていると、尾高は評する。

 一方で、「復活」には、ユダヤ人に生まれたマーラーの葛藤や、オーストリアへの愛慕の情が詰め込まれている。そうした部分のナイーブさや美しさも表現できれば、「よりマーラーが生きてくる」と期待する。

指揮者の尾高忠明=大阪市西成区、滝沢美穂子撮影

 尾高が最後に「復活」の指揮をしたのは50代だった。今は76歳。「いつ死が訪れてもおかしくない年になった僕が、『人は復活するために死ぬ』と振る。それは、前回とはまるで違う意味を持つ」と話す。

 当日のプログラムは、この一曲のみ。「マーラーが心血を注いだこれだけの大曲には、こちらも同じようにぶつかっていくのが良い。お客様も、この一曲にかけて、聴いていただきたい」(田部愛)

11月はウィーン・フィル

 世界最高峰の楽団のひとつ、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団が11月、大阪国際フェスティバルに登場する。プロコフィエフ「バイオリン協奏曲第1番」とマーラー「交響曲第5番」を演奏。世界中のクラシックファンを魅了する極上の音色を響かせる。

 指揮はアンドリス・ネルソンス。2010年に小澤征爾の代役でウィーン・フィルと初共演し、来日公演の指揮も務めた。20年には元日のニューイヤー・コンサートを指揮している。

 ソリストに、大阪出身の世界的バイオリニスト五嶋みどりを迎える。11歳での衝撃的なデビューから、圧倒的な演奏技術と豊かな表現力でクラシック界を牽引(けんいん)する。ウィーン・フィルとの「最高峰の共演」は、ファンにとって特別なひとときになるに違いない。

開催概要

◇大阪フィルハーモニー交響楽団×尾高忠明 マーラー「交響曲第2番『復活』」 8月2日(金)午後7時▽独唱:森谷真理(ソプラノ)、加納悦子(メゾソプラノ)、大阪フィルハーモニー合唱団▽S席8500円ほか▽協賛:朝日放送グループホールディングス、竹中工務店

◇アンドリス・ネルソンス指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 11月9日(土)午後3時▽五嶋みどり(バイオリン)▽プロコフィエフ「バイオリン協奏曲第1番」、マーラー「交響曲第5番」▽S席4万4千円ほか▽特別協賛:大和ハウス工業、協賛:アイリスオーヤマ、京阪ホールディングス、塩野義製薬、竹中工務店

◇会場:フェスティバルホール(大阪・中之島)

◇主催:朝日新聞文化財団、朝日新聞社、フェスティバルホールほか

◇チケットはフェスティバルホール(06・6231・2221、https://www.festivalhall.jp)ほか主要プレイガイドで発売中

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。