二宮和也主演で6年ぶりに日曜劇場に帰還する『ブラックペアン シーズン2』。シーズン1に引き続き、医学監修を務めるのは山岸俊介氏だ。前作で好評を博したのが、ドラマにまつわる様々な疑問に答える人気コーナー「片っ端から、教えてやるよ。」。シーズン2の放送を記念し、山岸氏の解説を改めてお伝えしていきたい。
今回は「医学監修」「インパクトファクター」「治験コーディネーター」についてピックアップする。
※登場人物の表記やストーリーの概略、医療背景についてはシーズン1当時のものです。
脚本の構想
脚本の段階から参加させていただき、スタッフの方々と事前に何度も打ち合わせをしました。心臓外科医が日々何を考え悩み、何を喜びとして、何を恐れているのかなど様々なことをお話しさせていただきました。心臓外科医でも色んな人がいて、さまざまな考え方や性格を持ち、葛藤し、嫉妬し、妬み、お互いの足を引っ張り合い、保身に走り、日々愚直に努力を惜しまず、格好つけて、自分を誇示して生きています。
そのようなことに加え、研修医の時に自分が受けてきた教育はどんなで、どんな外科医がいたかなど、具体的な体験談をスタッフの方に伝えました。実際に『ブラックペアン』の脚本に登場するエピソードはリアルにあり得る話ばかりで、渡海、世良、高階、佐伯とキャラの濃い人物が多数登場しますが、同じような心臓外科医は私の周りにも実在しています。
撮影の立会い
撮影現場にも立ち会わせていただき、演者さんと共に出来る限りのリアリティを追求しています。手術室の器具の配置、器械台の道具の配置は同じ病院で働くオペ看護師さんに協力してもらい、実際我々が行っている現場のまま再現しています。術野からの出血の仕方、術野のドレープに着く血液の付着具合、役者の方々のガウン(手術着)に着く血液の様子、全てあり得る形で再現しています。
役者さん方にはいろいろな所作を練習してもらいました。例えばガウン(手術着)を着る、着せるのは結構難しいのですが、皆さんに練習してもらい、3回目くらいの手術撮影では二宮さんは相当ガウンを着るのが早くかっこよくなっており、おそらく私よりも早く着れるようになっています。
糸結びも皆さんかなり練習されており、おそらく外科研修医より早く上手になっているので、本当の外科医になっても通用すると思います。渡海、世良、高階、佐伯、皆さん縫合の場面では実際に心臓模型を縫って、糸を結んで、メッツエン(ハサミ)で切っています。猫田や藤原の器械出しも実際のオペ看護師並みに上手で、現場でも通用するのではないかと正直驚いています。
二宮さんをはじめ皆さん非常に器用で、複雑な動きでも1回教えるとリハーサルの段階でほぼほぼ仕上がって、本番ではもう一流の心臓外科チームの所作となっているのには正直驚きました。自分が10年以上かかって習得したテクニックを数分で超えられてしまう、ある意味屈辱的な瞬間が数多くあり、一流の役者さんたちは本当にすごいと逆に学ばせてもらっています。
Q. タイトルにもなっている“ペアン”とはどのような器具?
ペアンは比較的挟む力が強い組織やチューブ、布などを挟んで止めておく道具です。ハサミのような形をしていて、先端が曲がっている曲がりペアンと、まっすぐな直ペアンがあります。ドラマの中で登場する“ブラックペアン”は佐伯教授が手術の仕上げに使う特製もの。佐伯教授がブラックペアンを使う=手術成功を意味する。
“インパクトファクター”とは?
ドラマ中にたびたび登場する“インパクトファクター”という言葉。
これは、学術誌の重要性や影響度を数値化した指標の一つで、学術誌に論文が載り、その論文が引用された回数から求められます。一方で、医師の研究の業績を評価する数値として取り扱われることも多いです。
シーズン1のドラマの中で、理事長選挙を争う佐伯教授と西崎教授。池永が編集長を務める「日本外科ジャーナル」は学術誌の最高権威を持っているため、そこに論文が載るかどうかで佐伯、西崎の得られるインパクトファクタ—の数値も違ってきます。これは理事長選挙にも大きく影響します。そのため佐伯教授と西崎教授は、あの手この手を使ってより高い数値の“インパクトファクター”の獲得を目指していくのです。
※『インパクトファクターは本来は、学術ジャーナルの影響度を評価する指標であり、特定の論文や個人の研究業績を評価するための指標ではありません。
インパクトファクターは、研究者が自分の論文を投稿すべきジャーナルを選定したり、研究機関が蔵書を評価したり、学術出版社がジャーナルの編集方針を見直すときに利用されます。(出典:クラリベイト・アナリティクス)』
治験コーディネーターとは
治験コーディネーターとは、治験責任医師又は治験分担医師の指導の下に治験に係る業務に協力する薬剤師、看護師その他の医療関係者の方です。 医療機関や製薬会社などの医療関係の企業と契約して働く方から、フリーで様々な場所で働く方まで、幅広い活躍をしています。仕事内容も治験開始の準備から被験者対応、検査データの収集および整理、医師への報告まで新薬や新しい医療機器などの導入に向け、未来の医療のため、患者さんに寄り添い、大変重要な役割を果たしています。
シーズン1では、フリーの治験コーディネーターである木下香織は、“ある思い”を実現させるため、清濁あわせのむような形で必死に働いていました。全話見ていただき、その思いに触れていただければと思います。
※インパクトファクターについて、ドラマ中では番組の演出上、実際の数値よりも低く設定しております。
※治験コーディネーターについて、ドラマの演出上、登場人物の行動は本来の業務とは異なるものも含まれています。
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イムス東京葛飾総合病院 心臓血管外科
山岸 俊介
冠動脈、大動脈、弁膜症、その他成人心臓血管外科手術が専門。低侵襲小切開心臓外科手術を得意とする。幼少期から外科医を目指しトレーニングを行い、そのテクニックは異次元。平均オペ時間は通常の1/3、縫合スピードは専門医の5倍。自身のYouTubeにオペ映像を無編集で掲載し後進の育成にも力を入れる。今最も手術見学依頼、公開手術依頼が多い心臓外科医と言われている。
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