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<新型コロナに、脚本家と俳優のスト、AIの脅威に動画配信サービスの独り勝ち...果たして映画館そしてハリウッドの栄華は10年後も続いているだろうか>

映画の都ハリウッドにも受難の時代が来た。4年前には新型コロナウイルスの感染爆発があり、昨年には脚本家と俳優のストがあって、今はAI(人工知能)の脅威もある。果たしてハリウッドの栄華は10年後も続いているだろうか。

ディズニーやパラマウント、ワーナーといったハリウッドの大手は昨年、軒並み赤字を計上した。大ヒットを狙った作品の多くは期待外れで、映画館には以前のような客足が戻っていない。


製作現場にも4年前ほどの勢いがない。映画大手への投資家の信頼は揺らいでいる。ハリウッドが転換期を迎えていることは明らかだ。10年後のハリウッドがどうなっているかを占ってみる。

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AIでハリウッドはどう変わるか

エンターテインメント業界誌のバラエティーによれば、いまハリウッドは「AI危機」に直面している。俳優も監督も脚本家も裏方のスタッフも、悪くすればAIに取って代わられる恐れがあるという。

今年1月にエンタメ業界の有力者300人を対象に行われた調査では、回答者の4分の3がAIの台頭による「ネガティブな影響」を懸念していた。2026年までにはエンタメ業界で働く人の20%(約20万人)の雇用が脅かされるとの試算もある。

しかし、単純にAIを悪と決め付けるのは間違いだ。3人の黒人アーティストが立ち上げた独立系製作会社「スターフューリー」のガイ・フォートに言わせるなら、「映画やドラマの製作にAIが関与すれば新しい未来が開ける。クリエーティブな可能性が広がる一方でコストを削減でき、視聴者の好みに合わせたコンテンツを生み出せる」かもしれない。

AIの可能性とコスト削減効果を実感しているのはフォートだけではない。俳優で国内最大級の撮影所オーナーでもあるタイラー・ペリーは先頃、動画生成AIソフトの「Sora」と出合い、スタジオの拡張計画を中止した。

オープンAIが開発したSoraを使えば、テキストで指示を出すだけで望みどおりの映像を作り出せる。「もうロケに行かなくても、わざわざセットを組まなくても、オフィスにいてコンピューターに指示するだけで映像ができる。驚きだね」。ペリーは業界誌にそう語っている。
可能性は無限大に見えるSoraだが、まだ開発途上で映像は不完全だ。例えば手足の位置がずれていたり、家具が浮いていたりする。体の複雑な動きを表現するのも、まだ苦手だ。

いずれにせよAIは今後、製作面だけでなく配給やマーケティングなど、さまざまな分野に影響を与えるだろう。

昨年の俳優組合のストはAI利用や配信ビジネスをめぐって118日間続いた MICHAEL TULLBERG/GETTY IMAGES

真っ先にAIが進出しそうなのが脚本の分野だ。フォートによれば、観客・視聴者の好みに合わせた脚本を量産するにはチャットGPTのような技術が役に立つ。

撮影や照明などの現場でもAIが人間のライバルになり得る。ただしAIが撮影スタッフを駆逐するのか、補助的な役割にとどまるのかは不透明で、まだ議論の余地がある。


フォートのみるところ、アニメや視覚効果の現場でもAIの出番が増えるのは確実だ。従来のような手仕事は減るだろうが、AIを駆使して質の高いイメージを生み出せる人材への需要は増す。

見通しが暗いのは俳優だ。「ディープフェイク」と呼ばれる映像合成技術を使えば、演技の「自動化」は簡単だとフォートは言う。実際、昨年の脚本家組合と俳優組合のストでもAIへの対応は大きな争点になった。

だが、いくらディープフェイクの技術が進化しても、熟達の俳優を駆逐するのは不可能に近いだろう。「感情のこもった繊細な演技には役者の才能が不可欠。その点に変わりはない」と、フォートは言う。「結果としてAIに食われてしまう仕事もあるだろうが、AIのおかげで生まれる新たな仕事もあるはずだ」

他の映画とAIで作られたという007映画予告編のコンセプト映像 KH Studio

作品の多様化はもっと進むか

動画配信サービスのトゥビと市場調査会社ハリスが合同で実施した調査によれば、ミレニアル世代(28~43歳)とZ世代(12~27歳)では「作品の内容や登場人物にもっと多様性が欲しい」という回答が全体の4分の3に達した。独立プロの活動や、低予算でも意欲的な映画・ドラマに期待したいという回答も7割を超えていた。

「大手スタジオや大企業の資金に頼ってはいられないと考えるクリエーターが増えている」と語るのは「スターフューリー」の黒人女性ヌビア・デュバル・ウィルソン。「人種や性的指向のため業界の主流から排除されてきた人たちが自力で作品を製作し、配給も手がける。そんなケースが今後はもっと増えると思う」

動画配信サービスの独り勝ちは今後も続くか

種類の豊富さや利便性の高さから、動画配信サービスは今後も優位を維持すると思われる。だが前出のフォートによれば、伝統的メディアへの回帰現象にも留意すべきだ。現に音楽の世界では、アナログレコードの人気が復活している。

同様に映像の世界でも「DVDやブルーレイなどが再び注目を集め、新旧の技術を融合させた新たな視聴体験が生まれる可能性がある」という。

昨年行われた脚本家組合と俳優組合のストでも、動画配信サービスは主要な争点の1つだった。動画配信の台頭によって俳優や脚本家に対する収益の分配に混乱が生じていたからだ。

長かったストの後に新たな労使協定が結ばれたが、結果としてコストが上がったため、動画配信を手がける企業は以前よりもプロジェクトの選択に慎重になった。これは採用される映画やドラマの本数が減り、配信が始まっても視聴回数が伸びなければすぐに打ち切られるリスクが高まったことを意味する。


脚本家・俳優のニール・チェイスによれば「今後は巨費を投じた大型作品や人気作のリメークものよりも、オリジナルのコンテンツに力を入れ、確実にコアの観客をつかめる作品が重視される」という。

いい例が昨年秋に公開された『ゴジラ-1.0』だ。1200万ドルに満たない予算で製作されたのに、全世界で興行収入1億1500万ドル超の大ヒット作となった。

「あの作品はゴジラ伝説をユニークな視点で捉え直し、しっかりした脚本と共感できるキャラクター、素晴らしいアクションで勝負した」と、チェイスは言う。「ゴジラのファンが求めるものを残さず提供していた。ぜひハリウッドもそこを学んでほしい」

米国版『ゴジラ-1.0』予告編 GODZILLA OFFICIAL by TOHO

映画館は生き残れるか

その昔、映画の黄金時代には話題の新作を見られる唯一の場所が映画館だった。だが新型コロナウイルスの感染爆発で、状況は一変した。

ロックダウンの影響で映画館は休業を余儀なくされ、20年には北米の映画館の総興行収入が23億ドルにまで激減した(前年実績は114億ドルだった)。不要不急の外出を禁じられた人たちは家から出ず、配信サービスで映画を見て満足するようになった。

あれから4年。今や映画が劇場公開の直後にストリーミング配信されるのは常識となり、劇場公開だけの期間はどんどん短くなっている。

だがフォートは、映画館がかつての栄光を取り戻すことは可能だと信じている。

映画館に客を呼び戻すには何が必要か。まずは施設内のサービス向上、よそでは見られないコンテンツの確保、そして家庭では得られない鑑賞体験の提供が重要だとフォートは言う。

「コロナ以前に戻るのは無理でも、映画館での鑑賞体験に価値を感じるファンは今も確実にいる」からだ。

そのとおりかもしれない。北米における映画館の興行収入は昨年、90億ドルを上回った。コロナ以前の水準まで、あと一息だ。

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