まさかの旅立ち、とあるように、誰もハロルドが旅に出るとは予想もしなかった。それは当の本人が一番びっくりで、ホスピスにいるという昔の恩人からの便りに返事を書き、投函(とうかん)しようと家を出たものの、いくつものポストを通り過ぎて800キロに及ぶ旅が始まっていた。しかも手ぶらで。

 ハロルドは歩きながら思い出す。懸命に生きてきたが、後悔ばかりの人生を。途中で出会う人々もまた何かを抱えながら生きている。

 どうすれば良かったのか、これからできることはあるのか。そんなハロルドの思いがじわじわと溶け出して、見るものと交じり合う。悲しみは悲しみとして、怒りは怒りとして受け止めなければいけなかったのに、うやむやにしてしまった自分を思い出しながら、ハロルドと一緒に歩いている。そして泣いている。(スターシアターズ・榮慶子)

◇シネマパレットで上映中

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