「原爆の父」と呼ばれた科学者ロバート・オッペンハイマー博士の半生を描き、米アカデミー賞で作品賞など7部門を受賞した映画「オッペンハイマー」の公開が始まった。被爆地・広島では、核兵器廃絶に向けた議論の契機になると肯定的な意見が出る一方で、原爆投下のシーンがないことから「描写が不十分」と反発する声も上がる。

広島市内の映画館「八丁座」には3月29日の公開初日、多くの観客が訪れた。同館によると、盛況は続いているという。

初日に映画を見た広島市内の高校2年生郡司あいさん(16)は「オッペンハイマーはものすごい苦悩を抱えた人物だった。(原爆を)作った人からの視点を学べる映画だった」と評価。同市の澤田俊子さん(82)は「(原爆)実験に成功し、皆が喜んでいたシーンはすごく悲しくていら立たしかった」と不満を示した。

2度見たという広島県原爆被害者団体協議会の箕牧智之理事長(82)は「広島に投下された様子が最後までなかった。ちょっとでもあったら核兵器の怖さがもっと分かる」と残念がる。一方で、「いろんな人が見て、たくさん議論をしてほしい」と話し、映画をきっかけに核廃絶の議論が高まることに期待を示した。

1991年から8年間にわたり広島市長を務め、「平和宣言」などで被爆地の思いを訴えてきた平岡敬さん(96)は、映画は核兵器の是非や、共産主義者を公職から追放する「赤狩り」など多くの問題を提起しており、「特に日本人にとっては原爆という問題を考えるきっかけになる」と語る。

内容については、「本筋はオッペンハイマーの人物像を描くこと」としながらも、「放射線の恐ろしさをもっと描いてほしかった。映画では十分説明していない」と指摘。「(米国人の)命を救うために日本に原爆を使ったと正当化している」と批判した。

広島に投下された原爆の写真の脇に立つ米理論物理学者のオッペンハイマー博士(dpa時事)

広島市内の映画館に置かれた映画「オッペンハイマー」のポスター=3月29日、広島市中区

映画「オッペンハイマー」について話す元広島市長の平岡敬さん=3日、広島市中区

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