収蔵品が増えすぎたことなどから展示室の公開を一時休止した奈良県立民俗博物館(大和郡山市矢田町)について、山下真知事は30日、保管している民俗資料全てを三次元(3D)データ化する方針を表明した。その上で、収集・保存の基準も今後定め、基準に満たない資料は、県内市町村や民間での保存や展示を公募し、それでも譲渡先が見つからないものは廃棄する。山下知事は「安易な一括廃棄にはあたらない」と強調した。
定例記者会見で山下知事は「民俗資料の収集・保存の奈良モデル」として紹介した。データ化するのは、同館が収蔵する約4万5000点の資料全てを想定しており、使われていた地域や材質の情報と合わせて保存する。
データ化の他、資料実物の収集・保存についての基準は、民俗学や博物館勤務経験者などで作る「(仮称)民俗資料収集・保存方策検討委員会」を近く設けて検討する。
実際の資料整理については、大学や他の博物館と連携したり、ボランティアを募ったりして3Dデータ化にかかる作業を進めることを想定しているという。またデータ化や整理に必要な予算については、国へも要望していくとした。
会見で山下知事は、2019年の日本博物館協会の調査をもとに「全国の博物館の約6割がほぼ満杯、もしくは入りきらない状況にある」と指摘。「博物館の収容スペース不足は全国共通の課題。先駆けて取り組む」と意義を述べた。
県立民俗博物館は1974年開館で、大正から昭和初期の生活用具、農具などを展示している。県によると開館時に7566点だった資料は2017年には約4万5000点まで増加。山下知事は「蔵まるごと民俗資料を引き受けてくることも多かったと聞いている」とした。
資料は次第に同館では入りきらなくなり、別に設置したプレハブ収蔵庫2棟や旧県立高田高校舎や旧郡山土木事務所に仮置きする事態になった。収容スペースに対して収蔵品が多すぎるとして、16日から展示室の公開を一時休止した。27年度中の再開を目指している。
山下知事が10日の記者会見で同館収蔵の民俗資料について「まず何を残すかの基準を決め、それ以外の収蔵品は廃棄処分も含めて検討してもらう」と発言。日本民具学会からは一括廃棄を懸念する声が上がっていた。
同館は、県出身の漫才コンビ「笑い飯」が日本一の漫才師を決める大会「M―1グランプリ2003」で披露した漫才ネタに登場したことでも知られている。【川畑岳志】
デジタルデータの保存活用が専門の山田修・県立大教授(文化財保存活用)の話
4万5000点を詳しく3Dデータ化すれば、億単位の費用がかかる。優先順位をつけるのが大事。重要でないものは大学や高校の授業と連携してデータ化を進める方が現実的だ。またデータ化に際しては、誤消去などが起きないようにする公の仕組みが必須になるだろう。
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