落語界の最長老、テレビでも活躍した新作落語の桂米丸さんが1日に99歳で亡くなった。橘流寄席文字などの書家で落語などの評論も手がける演芸プロデューサーの中村真規さんに、米丸さんの思い出を語ってもらった。【聞き手・油井雅和】
――最後の大正世代で、いつもおしゃれで、あの高い声。落語を知らない人でも「お笑いスター誕生!!」(日本テレビ系)の審査委員長の姿を覚えている方もいるでしょう。
◆とにかくテレビで売れた方で、三遊亭小遊三さんも、初めはテレビ司会者だと思っていたそうですから。(所属の)落語芸術協会の人の多くが、米丸さんのあの高い声のものまねができます(笑い)。
地元の有力者だった港湾荷役業者の息子さんで、都立化学工専(現在の東京都立大)を出たんです。橘流寄席文字の兄弟子で103歳まで生きた橘右京が、五代目古今亭今輔さんのところに米丸さんを紹介したそうです。
――入門して前座ではなくいきなり「二つ目付け出し」。わずか3年で真打ち昇進というスピード出世でした。
◆お金のある家でしたし、また、戦後すぐですから戦中から入門者もいなかったわけで、「二つ目付け出し」で入っちゃったんでしょう。
――若い頃は初代林家三平ら同世代の落語家と「創作落語会」を開いていたようですね。
◆三平さんと米丸さんは同い年でしたから。他にも「新作を作らないといけない」と自分に負荷をかけるために2人は落語会を一緒にやってました。
――2018年に81歳で亡くなった桂歌丸さんは、もともと弟弟子だったのが自分の弟子になりました。
◆今輔師匠は「これからは新作落語だ」と弟子にも勧めましたが、歌丸さん(当時は古今亭今児)は古典落語がやりたくて、一度破門になって落語界を一時離れ、のちに米丸さんの弟子に入り直すことで復帰がかなったわけです。
――米丸さんは1984年、落語芸術協会の会長時代に上野の寄席、鈴本演芸場の出演を断るという決断をしました。
◆はたからみていると、米丸さんが、というよりも、芸術協会の総意として鈴本に出たくないということだったと思います。「うちから出てくれるなとは言ってないから、戻りたいって言ってくれればいつでも戻ってほしい」と席亭は話してました。
原因になったのは、落語協会と比べて人数が少なかったこと、鈴本の尺度の人気者がそれほどいないと思ったということ、なんでしょう。でも、マスコミに出ている人は芸術協会は結構多かったんですけどね。
落語協会の芸人を落語芸術協会の興行に入れるということになったんですが、それが幹部クラスではなくて、当時若手の五街道雲助さん(現在は人間国宝)や柳家権太楼さんらで、それに芸術協会から不満が出たようです。
――米丸さんは落語芸術協会の会長を76年から99年まで務めました。同時期、落語協会は五代目柳家小さん会長で、こちらも72年から96年までの長期にわたりましたが、三遊亭円生さん、立川談志さんの協会脱会などがありました。一方の落語芸術協会はまとまっていたのでしょうか。
◆落語芸術協会にとっては、落語協会に対して、うちは内部分裂なんてしない、ということだったのでしょう。どんなに陰口を言っても「和の芸協」と言われていました。
――地元の東京・中野の「なかの芸能小劇場」開場にも尽力されたようで。
◆自ら中野に「けいこ亭」を立ち上げて、若手の育成に寄与していました。2017年、当時94歳の内海桂子師匠と92歳の米丸師匠に出演してもらい、三越劇場90周年記念の演芸会を企画しました。「90なんてまだ若い!」というタイトルでしたが、喜んでいただいたのを覚えています。
――米丸さんの得意ネタには「びっくりレストラン」「相合傘」「ジョーズ(のキャー)」など、最晩年には「ドローン出前」と、創作意欲は持ち続けられていました。
◆星新一さんの作品「賢明な女性たち」を取り入れた「宇宙戦争」など、時代を取り入れた新しいものを演じてきましたね。東京の新作落語は三遊亭円丈さん(21年死去)を境に「円丈以前」「円丈以後」という言い方をする人がいますが、そうかなあとも思います。
米丸さんはとにかく売れていたし、力があったし。それと、気配りが細かくて、悪く言えば口うるさかったんで、えらい目にあった人も多かったんですが(笑い)。一方で米丸さんは若手をかわいがってくれる。弟子の米助(ヨネスケ)さんが言う愚痴も、深い愛情があってとすぐわかりますね。
――落語芸術協会は若手の活躍など、充実した活動を続けていて、さぞかし喜んでいたでしょうね。
◆晩年、入られた施設では、同じ入居者の方々の人気者だったと聞いていました。ご本人も、笑わせよう、喜んでもらおうとされていたそうです。晩年も楽しげな様子で、芸術協会の隆盛を見守ってました。落語界として恩人の一人だと思います。
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