丁寧な語り口に、切れ味鋭いまくら--。落語界をけん引する実力派の一人、柳家三三(さんざ)が「新ネタお披露目道中」と題した独演会を全国で開催する。「あれもこれもと、新しいネタをやってみたいと思う気持ちが湧き出てきて、自分でも驚いています」。入門から31年がたった今、以前にも増して落語に魅了され、これまで避けていたネタへの挑戦も決めた。
神奈川県小田原市出身。18歳で人間国宝の柳家小三治(2021年死去)に入門し06年、真打ちに昇進した。古典落語の本格派として知られる一方、任俠(にんきょう)の道に生きるブタの成長を描いた三遊亭白鳥作の長編シリーズ「任俠流れの豚次伝」を口演したり、47都道府県を47日間で巡る独演会ツアーを成功させたりするなど、ユニークな試みで注目を集めている。
これまで高座にかけた噺(はなし)は300を超える。近年は「ネタを増やすよりも、手元にあるものを稽古(けいこ)して磨くこと」を重視。だが今年になって、12カ月連続でネタ下ろしをする会を東京で始めた。きっかけは新型コロナ禍。次々と落語会が中止になり、当たり前だった「生の笑い」のありがたさを実感した。日常が戻るにつれて、熱い思いが内側から湧き出てきた。「せっかく人前でしゃべる機会を与えてもらうのに、手付かずの噺がたくさんあるのはもったいない。もっと落語がしたいという欲求が尽きないんです」。より多くの人に新しい一面を見てもらいたくて、全国行脚を決めた。
大阪公演でネタ出しするのは「阿武(おうの)松(まつ)」と「黄金(こがね)餅」。「黄金餅」はケチで有名な僧侶が病で寝込み、ため込んでいた金をあんころ餅にくるんで丸のみし、死んでしまう。それを見ていた隣人が、金を手に入れようと画策するという噺。
五代目古今亭志ん生や立川談志の十八番で、「個性の光る師匠と比較され、やるだけ損というか。ハードルが高い」とこれまで避けてきた。グロテスクな描写をいかに表現するかなど、聴かせどころが多い。どんな工夫を凝らすのか。「この噺は、自己流とか、聴きどころとかを考えても仕方ないんです」と笑う。「談志師匠も『テーマとかそんなことを考えない方がいい』とおっしゃっていたそう。強いて言うなら、お客さんが構えないように聴かせつつ、満足感を与えたい。一生懸命生きている人を『落語』らしく描ければいいんじゃないでしょうか」と軽やかに語る。
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落語研究会などアマチュアでの経験がなく、「小三治による純粋培養」と称されることもあるが、意外にも小三治に噺をつけてもらったことはないという。ネタはもっぱら兄弟子や他の一門の師匠たちから教わった。「直接の稽古がなかったから、自分で何をすべきか考えた。一つのネタを大事にする師匠とは対照的に数を増やしたのも、芸の幅を狭めないための反面教師にしたから」。そのうえでこう続ける。「落語家としての生きざまを見せてもらったことに勝る教えはないですよ」
7月に50歳を迎え、ますます芸に脂が乗る時期に差し掛かる。「初心者とかマニアとか関係なく、誰もが等しく笑えるような噺家になりたい。いつものお客さんがいると、つい内輪の笑いになりがちだけど、そうならないように常に新鮮な気持ちで高座に上がりたいですね」。穏やかに目標を語った。
独演会の大阪公演は6月22日、ナレッジシアター(大阪市北区)。2回公演で午後1時と午後5時開演。「黄金餅」は午後5時の回で披露する。ほか福岡・西鉄ホール(5月19日)、京都・ヒューリックホール京都(11月30日)など。キョードーインフォメーション(0570・200・888)。【谷口豪】
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