15日放送予定の「虎に翼」第11話の一場面。 左から猪爪寅子(伊藤沙莉)、崔香淑(ハ・ヨンス)、大庭梅子(平岩紙)、桜川涼子(桜井ユキ)=NHK提供

 そのタイトルのごとく、グッと飛躍しそうな予感がする。今月スタートしたNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「虎に翼」。ヒロインの猪爪寅子(ともこ)(あだ名は「とらこ」)を演じるのは、俳優の伊藤沙莉。日本初の女性弁護士の一人で、裁判官にもなった実在の人物、三淵嘉子(1914~84年)がモデルだ。毎回の朝ドラチェックに余念がない放送担当の記者3人(屋代尚則=40代、井上知大=30代、諸隈美紗稀=20代)がドラマの注目ポイントなどを語り合った。

 屋代 「虎に翼」が始まって3週間になるね。寅子は見合いを勧める母親の反対を押し切って、女性に法律を教える「明律大学女子部法科」の門をたたいた。ここまで見てきてどう思った?

 諸隈 正直に言うと心配だった。というのも、先月まで放送していた朝ドラ「ブギウギ」が、朝ドラには珍しい、音楽が前面に出たタイプの作品でハマっていたから。「虎に翼」は、放送前の予告映像を見ていると「時代の荒波と戦う女性の一代記」という、オーソドックスな物語になるのかなという感じがした。だとすると、これまでの朝ドラと似たパターンで、途中で飽きちゃうんじゃないかと思っていた。でも、どうやら杞憂(きゆう)に終わりそう。

 井上 想像を超えてきた、ということ?

 諸隈 そう。何よりも、寅子役の伊藤がすてき。朝ドラのヒロインって「天真らんまん」な性格の女性が多かった印象がある。寅子はそうした魅力を備えつつ、もう少し落ち着いていて、地に足が着いた人という感じがする。そこに好感が持てるし、寅子が今後、どんな成長をしていくのか見守りたいと思う。

 屋代 同じく僕も不安だった。法律がテーマと聞いて、朝から見るにはちょっと硬いんじゃないかと。もう20年以上前だけど、僕は大学法学部の4年間、法律用語が難しくて、大変な思いをして机に向かった記憶があるので。でも「虎に翼」からは、そんな堅苦しさを感じない。

 井上 女性の立場が低かった戦前の民法の中身についても、作中で丁寧な説明がなされていて分かりやすいよね。それと、第2週で離婚で決着がつかない夫婦の財産を巡る訴訟のシーンは、人間味のある結末になっていたね。

 屋代 考えてみれば法律は人間が作り、人間が運用していくもの。血が通っていなくてはいけないなと、ドラマを見て気付かされたよ。ところで、寅子は作中で「はて?」(なんで)と、法律や社会への疑問を口にするけれど、みんなは「はて?」とツッコミたくなる場面はなかった?

18日放送予定の「虎に翼」第14話の一場面。左から山田よね(土居志央梨)、猪爪寅子(伊藤沙莉)=NHK提供

 諸隈 戦前の価値観だと、女性の社会進出は、今と比べものにならないほどハードルが高かったはずだよね。「家庭」を巡る考え方も全然違う。そんな社会の「はて?」に寅子が奮闘する物語とは分かってはいる。だけど、当時の女性があれほど堂々と意思を表明できたのかな、とも思った。

 井上 確かに。それと、寅子の父直言(なおこと)(岡部たかし)は、母はる(石田ゆり子)に頭が上がらない人物として描かれている。でも、当時は家父長制の社会だった。先進的な考えを持っている設定だとしても、あんなお父さん、本当にいたのかなあって。そうは言っても、フィクションだから、リアリティーを求めすぎるのはやぼかもしれないね。

 諸隈 ドラマだし、ある程度の「分かりやすさ」が必要だろうしね。それをおいても、寅子のような女性が戦ってきた歴史を描くドラマを放送する意義は、とても大きいと思う。女性、もっと言えば、人間が当たり前に持っていると広く思われている権利は、先人たちが努力して獲得してきたもの。一人の女性の成長物語としてだけではなく、「今」に通じるテーマ性がはっきりある社会派な面と、フィクションのドラマにしかできない描き方の良いバランスを期待したい。

 屋代 そろそろ最後にしようか。ヒロイン以外でイチオシのキャラクターはいる? 実は僕、寅子が明律大に入るきっかけを作った法学者・穂高重親の一挙手一投足に夢中なんだ。演じる小林薫は、他の作品ではどこか陰を感じさせる役も担ってきた。でも今作では、「女性に門戸を開く」という信念を貫く「純度100%」な人物だというのが、見ているだけで伝わってくる。さすが名優、セリフを言わなくてもそんな雰囲気を表現できてしまうのが、すごいなあ。寅子を支える穂高先生を、今後も見たい。

 諸隈 女性が法律家を目指すことを疑問視している裁判官、桂場等一郎(松山ケンイチ)に注目している。性格は堅物なのに食べ物の好みは甘党だし、第1週で寅子を巡って、母親のはると桂場が「対決」する場面で見せたおちゃめな表情を見て、憎めないなと思った。

 井上 明律大女子部の学生たちの一人一人が気になるな。それぞれに事情を背負っていて、法律を学んでいるみたい。とりわけ、男装の女性、山田よね(土居志央梨)。とにかく、目が離せないね!

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