老いや認知症をテーマに演劇をする岡山の劇団「OiBokkeShi(オイボッケシ)」8月、活動拠点の岡山県奈義町で新作の舞台が上演されました。出演したのは病気や障害がある人。計り知れない可能性を秘めた劇団の新たな挑戦とは。

老いや認知症をテーマに演劇を上演する劇団「OiBokkeShi」。劇団の主宰で監督や脚本を手掛ける菅原直樹さんは、この夏の新作で病気や障害がある人に舞台に立ってもらう挑戦をしました。

(劇団OiBokkeShi 主宰 菅原直樹さん)
「本当にいろんな背景を持つ人が集まった。それぞれの人生経験や得意なことを生かしながら、その人らしさが出る表現をしてほしい」

新作の舞台に夫婦で出演する内田一也さんと妻の京子さんです。

(演技指導をする菅原直樹さん)
「目を見て。佐代子さん、絶対に戻ってくる」

一也さんは9年前、脳出血で倒れ、一命を取りとめたものの失語症と高次脳機能障害が残りました。

(内田京子さん)
「絶望だった最初は。まったくしゃべれない、コミュニケーションはとれない」

■歯磨き介護の様子
(京子さん)
「覚悟はええか?」
(一也さん)
「歯が痛いんよ」
(京子さん)
「そっとしよう」

一也さんの日常生活には京子さんの介護が欠かせません。

2人が菅原さんの演劇に参加したきっかけは2022年の舞台です。

(京子さん)
「竹上さんの夫婦(恵美子さん、康成さん)の影響が大きいですね」

舞台、「エキストラの宴」には実際に認知症を患う女性とその介護をする夫が出演していました。感情のコントロールが難しく、笑わなくなった女性が、稽古や舞台の上では・・・。

(京子さん)
「認知症であっても2人で何か趣味を見つけていくというか、新しいものを、今までとは全く別の何かを見つけていこうとするところがすごい、素敵だなと」

実は京子さんは音楽療法の資格を持っています。

(京子さん)
「もしもしかめよの節でどんぐりころころ歌うで」
(歌う一也さん)「♪」

言葉を失った一也さんと歌を歌いながら言葉を取り戻していきました。

■舞台本番当日・会場は町内の中学校

(京子さん)
「(隣にいる一也さんを見て)言いたいせりふがなかなか言いたいのが言えなかった。でも、ここに来て皆さんのお陰で、菅原さん見て、せりふがちょっと言えるようになりました」
(菅原さん)
「大丈夫」

物語の舞台は老人ホーム。そこで出会う人たちを通して、家族の在り方を考えるというストーリーです。

(芝居)
「松村さん調子どうですか」

一也さんが演じるのは脳梗塞を患った入所者で松村という元中学校の教師です。

「松村さんどうしたんですか」
「女の子がおる」

この少女は、一也さんにしか見えないという設定。

(京子さんセリフ)
「勝手に知ったふうな口たたかないで!あなたに私たち家族の何が分かるというの!」

京子さんは、老人ホームの入所者の娘役。母親を探して老人ホームにたどり着いた青年と出会い、家族への向き合い方に変化が。

(京子さんセリフ)
「さっきの人みたいに、他人として親と接することができたらもう少し優しくできたのにな」

(一也さんを挟んでのシーン)
「松村さんから佐代子さんに送ったラブレターです」
「送ったのにどうしてこの方が持っている?」
「それは返されちゃったんですよね」
「な、な」
(笑いの起きる会場)

そして、母親を探す青年を励ます一也さんの大事なせりふ。

(一也さんせりふ)
「佐代子さんはな、絶対に戻ってくるけんな」
「今の松村先生好きなんです、できないことに対して後ろ向きになるんじゃなくて、今できることに喜びを感じて前向きになっているのが」

★拍手

(観客は…)
「私の義理の母が同じように失語症。参考になるというか、こういうふうにできるんだと私たちも元気をもらえた」

(知り合いの観客から)
「素晴らしかった、間違いない」

(内田一也さん)
「緊張しっぱなしだった」

(内田京子さん)
「受け入れてくれる人がいるから言葉が出てくる。参加していてもみんなが受け入れてくれなければたぶん言葉は出ていないし、彼自身がお芝居をやろうという気持ちにもなっていない」

(菅原直樹さん)
「ここで得た役はもしかしたら、現実とは違うが、そこに現れている説得力やリアリティーは本物なのではないかと思う」

舞台の上の役者たちは、誰もが計り知れない可能性があることを教えてくれました。病気や障害があっても自分らしく輝ける場所、その場所は確かにありました。

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