文化庁の庁舎=京都市上京区で2023年2月、山崎一輝撮影

 文化庁は6日、映画や音楽、伝統芸能団体でのハラスメント防止や労働環境改善に向けた方針を発表した。閉鎖的で独特な慣習が一部で残る文化・芸術分野で軽視されがちな「個人の尊厳」の保護を進めるとして、ハラスメント対応の専門家の派遣や法律相談の窓口設置などの経費約4億円を2025年度予算の概算要求に計上した。

 文化・芸術分野では、映画監督が「指導」の名目や地位関係性を利用し、俳優やスタッフらが性暴力被害に遭ったり、死亡した劇団員の遺族がパワハラ被害を主張したりする事例があった。このほか、フリーランスが多い現場での長時間労働や契約トラブルなどが問題視されてきた。一方で文化庁が134団体を対象に実施した調査によると、パワハラの対処方針を定めているのは17団体、セクハラは15団体にとどまる。

 政府の「新しい資本主義実現会議」は、日本のアニメ、映画などのコンテンツ産業の海外進出や、作家への利益還元などの課題を念頭に「クリエーター個人の創造性が最大限発揮される環境の整備」を掲げている。

 これを受け、文化庁は芸術家らの「個人の尊厳ある創造環境向上」に各団体が取り組む方法を検討する会議を7~8月に計4回開催。能楽や人形浄瑠璃などの伝統芸能家や各団体の代表者、大学教授らが意見を交わし、方針を取りまとめた。

 議論のまとめでは、各団体がハラスメントから個人を守るための対応指針や、フリーランスでの労働実態が多いことを踏まえ、就業や契約について専門家の助言を受けられる体制の整備を明記。そうした取り組みについて各団体が参考にできる指針を、文化庁が策定することにした。

 文化庁は概算要求に、各団体にハラスメント防止の体制整備について助言する専門家を派遣するなどの新規事業として2億円の経費を計上。また23年9月に開設した、個人のための無料法律相談窓口の継続などに計1億9000万円を盛り込んだ。

 文化庁担当者は「芸術・芸能分野に『ブラック』なイメージが定着し、担い手が減っているとの懸念も寄せられている。芸術の質を下げることなく、持続可能な業界にしていく取り組みが求められる」としている。【西本紗保美】

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