愛用の三線を抱える新垣睦美=9月13日、那覇市内

 沖縄音楽を軸に電子音楽や環境音楽などの要素を織り込んだ作品を生み出しているアーティスト・新垣睦美。2021年にポルトガルで開催された世界最大級のワールドミュージック見本市「WOMEX2021」に沖縄のソロアーティストとして初めて招かれた。アルバム「Another World of Okinawan Music」が英国「BBCミュージック・マガジン」の選ぶ優れたワールドミュージック作品に名を連ねるなど、海外を中心に高評価を受けている。

沖縄音楽×他ジャンルで再構築

足元に多くのエフェクター(音に効果を与える機材)をそろえて独特の音色を奏でる新垣睦美(YouTubeチャンネル「ARAGAKI Mutsumi」より)

 新垣は三線の音色にエフェクト(各種効果)をかけたり、伴奏的に電子音や風景音などを駆使したり、沖縄音楽の独特なグルーブ感を生かしたりしながら、他ジャンルの音楽と融合させるなど沖縄音楽の再構築ともいえるアプローチをしている。

 9月21日に沖縄市のミュージックタウン音市場で開催される、ルーツミュージック(その土地ごとの土着の音楽)の“現在の形”をテーマとしたイベント「BRAND NEW TRAD 2024」に、翌22日に那覇市の桜坂劇場で行われるBITOI(スウェーデン・デンマーク)とのツーマンイベントにそれぞれ出演する。両日ともピアニストを交えたデュオで出演する予定で、これまでにリリースした作品とはまた違う新垣の歌三線の世界に触れることができる。BITOIの4人とコラボして生まれた、沖縄と北欧の音楽が融合した楽曲も披露される。イベントを前に話を聞いた。

北欧の多国籍メンバーからなるBITOIとのリハーサルを進める新垣睦美(左から2人目)=9月13日、那覇市内

ルーツである沖縄に憧れ

 -沖縄の音楽との接点を教えてください。

 両親はウチナーンチュですが、私自身は名古屋育ちなので、沖縄や沖縄の文化に憧れの視線を向けていました。高校生で自分のアイデンティティーを考え始めた時に、名古屋のCDショップで、古典と民謡が両方入ったCDを買ったのが最初です。アフリカンミュージックやソウルミュージックが中学生ぐらいからずっと好きで、そのようなルーツミュージックの一つとして沖縄の音楽を聴いていました。

 -海外のさまざまな場で評価を受けています。このことをどのように受け止めていますか?

 沖縄音楽をもともと知っている方も全く知らない方も、とても興味を持ってくださっていて、高い評価も頂けていることに大変感謝しています。今のスタイルでやり始めたのが10年ほど前で、その時は「イベントにでも出られたらいいな」ぐらいの感じだったんですけど、(ミュージックタウン音市場・桜坂劇場のプロデューサーの)野田隆司さんがワールドミュージックはじめ、沖縄の音楽を世界に発信し盛り上げようと動き始めた時期とタイミングが合致して、その波にうまく乗ることができました。「自分が聴きたいと思って作った音楽」を、また別の人が「聴きたい」と思ってくれるようなシーンが国内外にあることを知るきっかけにもなりました。こういった沖縄音楽界を盛り上げてくださる方々にも大変感謝しています。

 -新垣さんは、ウチナーグチで歌いつつも、外国語を駆使して発信するなど、言語にも重きを置いた活動をされている印象もあります。

 外国語でも発信しているのは、私の音楽を聴いてくださる方々が国内外にいるからです。沖縄伝統曲はウチナーグチで歌いますが、オリジナル曲の歌詞は、自然と出てくる言葉の言語を、そのまますくい上げたいなと思っています。誰にその歌を届けたいのかで、一番届きやすい言葉が出てくるのだと感じていますし、なるべく多くの人に伝わるといいなと思って、他の言語での発信もしています。ライブのオーディエンスに海外の方がいる場合は、MC時に英語でも歌詞の世界観を共有します。「自分自身がオーディエンスやリスナーの立場だったら」という目線で、発信の仕方を考えています。

バンドスタイルで表現できる喜び

バンドでの表現について思いを語る新垣睦美=9月13日、那覇市内

 -現在の表現スタイルにはどのように行き着いたのでしょうか?

 ずっと、ピアノとダブルベース(コントラバス)とドラムスと一緒に小編成のバンドで音楽をやりたいという夢がありました。なかなか思うようにメンバーが探せない時期に、自分のやりたい音楽を雰囲気だけでもミュージシャンに伝えられればと思い、パソコンでデモ音源を作っていました。それがきっかけで、一人でも活動できるなと思い、ソロ活動を始めました。

 パソコンやエフェクターなどの機材に囲まれて歌三線を演奏するので、見た目や音を珍しがられたり、電子音楽系のミュージシャンの知り合いやファンも増えたりしましたが、夢はあくまでバンドで自分のやりたい音楽をやることです。ですので、今回の9月21、22日のイベントはピアニストとデュオで共演できるということで、大きな意味と喜びを感じています。

 -あくまで「バンドで表現したい」という原点があるんですね。

 歌三線だけをやっている時から、周りの他の音がイメージできて自分の中で聴こえていました。沖縄音楽にある、譜面では表せないグルーブ感や匂いを理解・共有できて、即興性も大事にしているミュージシャンと一緒に音楽をしたいです。バンドは、お互いの音のやり取りが喜びですし、想像を超えたものが生まれることがあり、違う次元に行けるのも魅力です。

BITOIのカシウス・ランバート(左)らとやり取りをする新垣睦美=9月13日、那覇市内

 -9月21、22日のイベントでは、北欧のBITOIとのコラボも予定しています。取材日がリハーサル初日となりました。

 お互いの文化を共有し合いながら、一緒に作っています。メンバーは、スウェーデン、デンマークに加え、中東やエチオピアにもルーツがあったりと、いろんなルーツが交ざってとても興味深いです。即興性を大切にして、いろんなアイデアを試しながら音楽を皆で作り上げることができてとても楽しかったです。ライブ当日もとても楽しみです。
 

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