江戸期から昭和にかけ、参宮客の往来によって情報や文化が行き交った伊勢は多くの画家を輩出した。「神都画人」と呼ばれ、意欲的に創作活動をしながらも注目されることは少なかった。「このままでは埋もれてしまう」と憂えた地元資料館の館長が企画展の開催や図録の刊行で知られざる才能に光を当てている。
三重県伊勢市立伊勢古市参宮街道資料館(同市中之町)は3月、伊勢ゆかりの画家53人を紹介した図録「神都画人」(A4変型判、274ページ、非売品)を刊行した。世古富保館長が「伊勢ゆかりの画家の功績を後世に伝えるため本にまとめることが資料館の役割」と1年半かけてまとめた。
同資料館は1995年、江戸時代に全国各地から訪れる参宮客の往来でにぎわった参宮街道沿いに開館。2008年に就任した世古館長は、かつては歓楽街で伊勢歌舞伎や伊勢音頭など文化や芸能が育まれた「古市」ならではの歴史と文化を広く知ってもらいたいと、10年から年2回、テーマを変えて企画展を開催している。
「神都画人」は140人ほどいたとされる。円山応挙の弟子で伊勢に円山四条派の礎を築いた岡村鳳水(ほうすい)や、その流れをくんで多くの画人を送り出した磯部百鱗(ひゃくりん)。また、徳川秀忠の娘・千姫にゆかりのある寂照寺の住職で応挙の門下だった画僧・月僊(げっせん)、猿田彦神社に生まれた伊藤小坡(しょうは)らが作品を残している。
しかし、そのほとんどはあまり知られてこなかった。世古館長は隠れた名作を知ってもらいたいと調査を進め、13年から21年にかけて画人をテーマにした8回の企画展で作品を公開する傍ら、画家の系譜を資料としてまとめてきた。刊行された図録では53人の経歴や時代背景、代表作359点を紹介している。
資料館では図録刊行記念の企画展を前期と後期の2回に分けて開催中。29日までの前期は10人の画家の30点を展示し、図録で未収録の作品も公開している。後期は10月1日から始まる予定。世古館長は「神都画人が描く作品には四季折々、地元の風景が描かれているのも魅力の一つ。身近に感じて興味を持つきっかけになればうれしい」と話す。
月曜休館。29日は祝日のため開館。無料。問い合わせは同館(0596・22・8410)へ。【小沢由紀】
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