有名な作曲家、ヨーゼフ・ハイドンの5歳下の弟で、40曲を超える交響曲などを書いたミヒャエル・ハイドン(1737~1806年)は、モーツァルトに影響を与えたことでもよく知られている。ミヒャエルがキリシタン大名、高山右近(1552~1615年)の殉教をテーマに作曲したバレエ付きの音楽舞台劇「ティトゥス・ウコンドン、不屈のキリスト教徒」が10月、250年ぶりに復活上演される。
作品は1770年、ザルツブルクでラテン語により初演された。初演はモーツァルトも見たと言われる。その後、74年にドイツ語で再演され、バレエ曲28曲と合唱曲2曲、演劇台本が残されている。日本における殉教を描いたものだけに、日本では演劇部分と合唱2曲が2005年に上演されたのをはじめ、何度か紹介されたことがある。しかし、バレエ曲を入れた形では1774年以来。海外でも再演の記録はないという。
今回の公演を主催する東京芸大演奏芸術センターは毎年、特定のテーマを設けた「芸大プロジェクト」を行っており、今年は「西洋音楽が見た日本」として同作品を取り上げる。
物語は2部に分かれ、入信した戦国武将の高山右近を主人公とし、キリシタンへの弾圧とそれに対する勝利を描く。構成・演出にあたる音楽評論家でコントラバス奏者の布施砂丘彦(さくひこ)さんや監修の西川尚生慶大教授によると、元来がラテン語学習など教育目的の「学校劇」だが、非常に面白い作品に仕上がっているという。バレエ曲は、西川教授が複写したミヒャエルの自筆譜を用いる。舞踊に関しては資料が残っておらず、どのような踊りだったか不明なため、伊藤キムさんが新たに振り付ける。
ヨーロッパでは1600年代から1800年代半ばにかけて、日本の殉教ブームが巻き起こった。主として日本のキリシタンをテーマにした演劇・オペラが各地で約150作生まれ、200回近く上演された。欧州から見てへき地の日本でこれだけキリスト教が信仰されているという布教宣伝の要素もあったと思われ、大友宗麟、小西行長、細川ガラシャなどが主人公になっている。
とはいえ、当時はヨーロッパにおける日本への本質的な理解度はもちろん高くない。この作品でも登場人物の「ショーグンサマ」は、豊臣秀吉と徳川家康と天皇を混在させたような人物で、寛大でありながらも、民が女性を献上しないと怒りだすといった側面もある。高山右近である「ティトゥス・ウコンドン」は、キリスト教にも「ショーグンサマ」にも忠誠心を持っているが、「殉教」への思いがあまりにも強く、殉教したはずの妻子が生きていたと分かると怒り狂うなど、宗教に身をささげることへの憧れが強く描かれている。
布施さんは「インバウンド客が増加している今、ヨーロッパと日本に互いの情報があふれている。この作品を上演することで、当時の解像度の低い日本への理解と現在の日本への理解に、本質的に共通するものがあるのではないか、という点を引き出したい」と、復活上演の意味を語った。
10月20日午後3時、東京都台東区の東京芸大奏楽堂で。演劇(日本語上演)は小泉将臣さん(俳優座)、渡辺真砂珠さん(文学座)らが出演。演奏は同大古楽科有志のオーケストラと同声楽科有志の合唱。問い合わせは東京芸大演奏芸術センター(電話050・5525・2300)。【梅津時比古】
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