韓国流の育成メソッドを応用して誕生した6人組のガールズグループ、KATSEYEはドキュメンタリー作品も引っ提げてデビューした NETFLIXーSLATE
<韓国の芸能事務所ハイブが米大手ゲフィンと「グローバルグループ」を結成。デビューを追った映像作品で思い出す昔のあの番組>
韓国芸能事務所ハイブと米音楽レーベル大手ゲフィン・レコードが手を組んで、世界初の「グローバル・ガールズグループ」を送り出す──そんな決意の下、両社は次世代の人気ポップグループを、1年間かけて一からつくり上げることにした。
このプロジェクトの狙いは、Kポップ流の育成手法や美的センスを、アメリカを含め世界に売り出す多国籍ガールズグループの結成に応用すること。韓国芸能界ならではの過酷な訓練プログラム、通称「トレーニング・開発(T&D)」の濃縮版を実施し、その後に韓国式のサバイバルオーディション番組で最終メンバーを決定することにした。
その結果、ついに誕生したのが、KATSEYE(キャッツアイ)だ。アメリカ、スイス、韓国、フィリピン出身の6人から成るこのグループは8月16日、デビューEP『SIS(ソフト・イズ・ストロング)』を発表した。
これほど規模も予算も大がかりで、ハイブとゲフィンいわく前代未聞の事業なら、全てを撮影してドキュメンタリー作品にしようと、経営側が考えたのは当然だ。ネットフリックスで8月21日に配信スタートした『ポップスター・アカデミー:KATSEYEになるまで』(全8回)は、ポップグループの結成をめぐる業界の姿を描き出す。
ただし、世界初の試みと宣伝されているとはいえ、本作は全く画期的なわけではない。ヒントになっているのは、2000年代の新人発掘ものの音楽リアリティー番組『メイキング・ザ・バンド』や『プッシーキャット・ドールズ・プレゼント──新たなドールを探して』だ。おかげで、現代のリアリティー番組界の空白を埋める作品が生まれた。
韓国芸能界の慣例では、ごく若いうちに契約した訓練生が何年間も歌やダンスのレッスンを受け、メディア対応や礼儀作法、外国語を学び、デビューを目指す。このメソッドのカギを握るのは、育成に費やす「時間」だ。
独自性と類似性の間で
『ポップスター・アカデミー』の前半では、まさに時間不足がテーマになっている。人材発掘と訓練を1年に満たない期間で行う戦略が描かれ、選抜された候補者20人が共同生活を送り、「ハイブ・アメリカ(ハイブのアメリカ本社)史上初のT&D」に参加する。
T&D期間中、ハイブとゲフィンの担当チームは数カ月ごとに、各候補者のパフォーマンス能力や態度を評価。最下位者は退場し、競争心の維持や弱点分野の強化のために新たな候補者が加えられる。
最後まで残った20人は、サバイバルオーディション番組『ドリームアカデミー』に出場して課題に臨む。視聴者投票とプロデュース側の審査によって最終的にメンバーが決まる仕組みだ。この手法では、視聴者が結果に対して主体性を持つだけでなく、デビュー前の時点でファン基盤を築き上げる効果がある。
こうしたアプローチは、韓国芸能界独特と言っていい。その目的は「各自の個性を称賛しつつ統一性を打ち出す」ことにあると、プロジェクトのクリエーティブディレクター、ウンベルト・レオンは語っている。典型的な役柄(優等生、反逆児、かわいい系など)を割り振られた、個々人の集合体という欧米のポップグループとは別ものだ。
とはいえグループ誕生までのプロセスは、00年~09年に放送された『メイキング・ザ・バンド』とよく似ている。バックストリート・ボーイズやイン・シンクの生みの親、ルー・パールマンが新たなボーイズグループ結成のため、アメリカ各地からメンバー候補を集める番組だ。
同様に、驚異的な6人組の米ポップグループ、プッシーキャット・ドールズの『新たなドールを探して』(07年)では、7人目のメンバー候補らが共同生活を送りながら生き残りを目指した。
業界の内側を描き出す
『ポップスター・アカデミー』の元ネタは、この手のリアリティー番組のサブジャンルだ。これらの番組でドラマを生み出していたのは、スターの座を求めて競い合い、仲間として要求されるサポート精神と、競争心の間で揺れ動く候補者たちの姿だった。
当然ながら、00年代の番組には大きな違いもある。リアリティー番組の黄金時代だった当時、オーディションに出場したのは10代の子供ではなく成人だった。複数の国から人材を募ることはなく、候補者と審査員の間の言語の壁を考慮する必要もなかった。メディアへの対応など、有名人であることの別の側面に気を配ることも少なかった。最大の違いは、ドキュメンタリーとオーディション番組の融合ではなかったことだ。
それでも『ポップスター・アカデミー』は、今や姿を消した往年のある種のリアリティー番組の再来という印象が強い。これはカルチャー史の視点からも重要だ。ただ面白いだけでなく、ポップ業界の内側をのぞかせてくれる作品だからだ。
20年ほど前の音楽リアリティー番組は、若年女性を必要とする業界の構造、成功するグループづくりのために検討すべきあらゆる細部について教えてくれた。スターグループを生み出すのは、実はとても大変であることも。『ポップスター・アカデミー』の場合、それだけではない。かつての番組をなぞりながら、韓国と欧米のメディア手法の興味深い対比を提供している。
もちろん、これはハイブとゲフィンの賢い戦略でもある。同作は、カネのかかる企画のファン基盤を強化し、前例のないプロジェクトという主張に肉付けするのに貢献している。目新しいやり方ではないものの、韓国の業界は手本にした欧米モデルを磨き上げ、成功確実にみえるメソッドとして完成させている。
ハイブの拡大路線は、これで終わりではない。同社は8月1日、グローバル展開を推し進める新事業戦略「ハイブ2.0」を発表。その一環として、ハイブ・アメリカ経由で、米ポップシーンにKポップを注入しようとしている。
KATSEYEがもくろみどおりに成功するか、答えはまだ分からない。だが少なくとも、『ポップスター・アカデミー』はあることを証明している。ポップ業界を描くリアリティー番組がついにカムバックした、と。
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