今再び注目度が高まっている松江ゆかりの文豪・小泉八雲とその妻・セツ。この2人の出会いを橋渡ししたと伝わる、西田千太郎という人物を御存じでしょうか?松江時代の八雲を教師の同僚として、公私ともに支えた友人です。松江市内に残っていたその千太郎の旧宅から、八雲に関連した手紙や書簡など、大量の史料がこのほど発見されました。関係者は新たな「地域の宝」にと、大きな期待を寄せています。

明治時代の松江の教育者・西田千太郎。松江で教鞭を執った八雲が、同僚として最も信頼を寄せた友人です。千太郎は、八雲と会ったばかりのセツが英語を話せず、意思の疎通が難しかった時、通訳のような役回りをこなし、2人の距離を縮めたと伝わっています。その千太郎が暮らした家が、今も松江市の中心部に残っています。
そして9月22日、ここで行われたのは…。

島根大学法文学部・宮澤文雄講師:
これだけの史料が出てきたので、どのような形で保存するのか、もっともよい活用の仕方を検討していくことになる。

島根大学で八雲を研究する宮澤文雄講師によると、この千太郎の旧宅からは千太郎の日記や、八雲が千太郎に宛てた書簡など、膨大な歴史的史料が見つかったということで、この日は集まった地域の住民などに、見つかった史料を説明しました。

島根大学法文学部・宮澤文雄講師:
明治24年ごろから、ヘルンの名前を見ることができます。

見つかった史料は、ほとんど存在の知られていない八雲の写真や、千太郎と八雲の関係性の深さを裏付ける文書など、300点以上あるといいます。その一つがこちら。

島根大学法文学部・宮澤文雄講師:
ハーンが、千太郎の子どもにプレゼントした、ちりめん本です。

すでに存在が知られていた千太郎の日記には、こう記されています。

明治27年6月11日
「ヘルン氏、小児等ニ日本昔話譚英訳書一箱(二十部)ヲ送ラル。」

すでに松江を離れていた八雲が、千太郎の子どもの英語の勉強のために、日本昔話の絵本を送ったという記述。

島根大学法文学部・宮澤文雄講師:
現物が残っているとは思っていなかったので、今回この家から現物が見つかった。

日記に記されていた本の現物が存在していたのです。2人の親交の厚さを改めて浮き彫りにします。またこんなものも。

島根大学法文学部・宮澤文雄講師:
お正月に、どういう人がこの家を訪ねてきたかという記録です。

この家を訪れた来客の名簿です。このなかにはヘルン=八雲の名が25回も登場します。

島根大学法文学部・宮澤文雄講師:
来たとしたら、こちらの客間の上座に座ったと思います。

日記にはこんな記述が。

明治23年12月19日
「ヘルン氏来訪、密柑贈ラル」
明治23年12月21日
「ヘルン氏ラムネ二瓶ヲ贈ラル」

病気のため、宅療養していた千太郎の元を、手土産を持って何度も訪れていました。

島根大学法文学部・宮澤文雄講師:
ハーンと千太郎の思い出がたくさん詰まった家だと思う。

これらの史料は、人の目に触れることもなく、タンスや押入れの中で長い間眠っていたのです。この旧宅は、千太郎の死後も子孫が住んできましたが、30年近く前から空き家になってしまい、築150年以上経って朽ちていく一方でした。こうしたなか立ち上がったのが地域の住民でした。

自治会長・今岡克己さん:
ずっと空き家になって心配してたんですけれども、たまたまここに帰ってらっしゃった西田さん、ここの持ち主さんとこの草刈りやってらっしゃる時にお会いして、ぜひここを町内会の何か集会場に使わせてもらえませんかという相談をしたら、それだったら良いですよと。

千太郎の旧宅であることを知っていた自治会長の今岡さんは、年に数回、県外から家の手入れに来ていた千太郎の子孫に空き家の保全と活用を提案し、借り受けることにしました。そして掃除のために家の中に入ると、びっくり仰天したといいます。

自治会長・今岡克己さん:
そうしたら今までわからなかった、知らなかった西田家の歴史、ハーンからの手紙も出てきている。これは町内会のレベルの話じゃないと。

そこで、宮澤講師などの研究者に相談し、史料の整理をすることになったのです。
宮澤講師は、膨大な史料をデータベース化し、分析する予定で年単位の長期間かかると見ています。

島根大学法文学部・宮澤文雄講師:
いろんな研究者の力を借りながら、八雲のことや千太郎の活躍した部分、教育者としての評価を、松江の歴史として改めて考えていくきっかけになる価値がある。

小泉八雲に関しては、2025年に妻・セツがモデルの朝の連続テレビドラマが放送がされる予定で、地域振興に役立てようという動きもでている中「地域のために」という思いは発見者の今岡さんも同じです。

自治会長・今岡克己さん:
来年の秋から、NHKの朝ドラで「ばけばけ」が始まります。他局で申し訳ない。ここに、日本中からいろんな人が来て、松江にそんな歴史があったのか、と学んでいただける場になれば最高。

今岡さんと宮澤講師は、千太郎の功績を広く知ってもらおうと整理がつき次第、旧宅の見学会や、史料の一般公開を検討していて、長い眠りから覚めた史料が新しい「地域の宝」に「化ける」ことを期待しています。

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