布地に和紙を貼り付けたり、まるで折り紙のように立体的に折ってみたり。須藤玲子さん(70)は、布地をデザインするテキスタイルデザイナーとして、全国の職人たちとともに唯一無二の布を作り続けている。

 布に憧れを抱いたのは、幼少期にさかのぼる。水戸市の祖父宅には、よく呉服屋や行商が訪ねてきた。10畳の和室にきらびやかな反物がシュッと音を立てて次々広げられていく様子を眺め、「いつか美しい布をつくる人になりたい」と夢を抱いた。

 武蔵野美術短期大を卒業後、シーツなどの図案を描く仕事で生計を立てながら、多彩な糸を手作業で織り込む「つづれ織り」の作家を目指した。

 1983年、国際的なテキスタイルプランナーとして知られる新井淳一氏と出会う。

 それまで手作業で織ることにこだわっていたが、機械を使った布作りの可能性に気付かされた。新井氏が生み出す布は、機械が織る工業製品でありながら、途中に人の手が加わることで、ゆがみやムラがあり、人間の「手の痕跡」が残されていたからだ。

 「ファッションデザイナーのために作るだけではなく、同じくらいエネルギーをかけたテキスタイルを一般の人にも届けたい」。84年、新井氏と一緒にテキスタイルメーカー社「布」を創立した。

 87年にディレクター職に就いてからは、革新的な布作りに挑戦してくれる染織の現場を開拓。工場にイメージする絵を持っていっては、職人と対話しながら、どうすれば実現できるか探ってきた。今ではその現場が全国26の産地、115社の染織工場に広がっている。

 水戸芸術館で開催中の個展では、水戸市の職人と共同で制作した「こいのぼり」がある。水戸藩由来の伝統技法「水戸黒」で染めた作品だ。水戸黒は一時途絶えかけたが、伝統を再現しようと取り組む職人を23年6月に訪ね、藍色の下地に何度も黒い染料を重ね塗りする工程を教わった。「黒の下に藍がある」。技法が伝わるように、あえて下地の藍色が残るデザインにした。

 布作りで意識するのは「サステナブル(持続可能)か」。成熟前に倒れた植物や、蚕が最初に吐き出す硬い糸「きびそ」、くず鉄……。これまでは廃棄されてきた素材も、職人や最先端技術の力で糸に変えてきた。

 「たまたま出会った素材に心が動かされたら、それが廃材であってもどうやったら生き返るか考えたい」

 新しい色、素材、形。布にはそれを実現させる知恵と技術が詰め込まれている。

 「あまりにも身近で気付いていないかもしれないけれど、テキスタイルって面白いでしょ」

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 水戸芸術館では5月6日まで展覧会「須藤玲子:NUNOの布づくり」を開催している。開場時間は午前10時~午後6時。月曜休館。一般900円。高校生以下や70歳以上、障害者手帳の保持者と同伴者1人は無料。(富永鈴香)

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