世界遺産登録をめざす「彦根城」(滋賀県)について、「登録の基準を満たす可能性がある」とする事前評価結果をユネスコ(国連教育科学文化機関)の諮問機関が出した。文化庁が9日発表した。ただ、彦根城の価値としている江戸時代の「大名統治システム」を示すには、彦根城単独だけではなく、他の城とあわせた推薦も検討すべきだとする見解も示した。
事前評価は、政府による正式な推薦書の提出前に、ユネスコの諮問機関「国際記念物遺跡会議(イコモス)」から技術的・専門的な助言を受ける制度。各候補をより質の高い状態で世界遺産に登録するのが狙いで、2027年に推薦する候補からは義務化される。昨年試験的に導入され、ユネスコによると、十数カ国が利用した。国内では彦根城が初めて申請し、結果は今月2日未明に届いた。
評価結果によると、諮問機関は、推薦戦略を徳川期の日本における大名統治システムの重要性に置いたことを支持。一方で、この統治システムを「単独の城郭で十分表現できるのか」といった弱点があると指摘し、いくつかの城を含めた推薦も検討することが必要とした。単独で説明する戦略もあり得るが、その場合は統治システムにとっての彦根城の重要性をよりしっかり示すことが必要とした。
滋賀県の三日月大造知事は「世界的な観点から見て顕著な普遍的価値を持ち基準を満たす可能性があるとしていただいたことが、我々にとっては大きな成果。推薦書作成に向けて説明を充実すべき点についても様々な示唆を頂いた。今後、文化庁や彦根市と協議したい」などとコメントを出した。
世界遺産登録には、文化審議会で国内推薦候補に選ばれるなどの段階を踏む必要がある。最短だと2027年だが、他の城とあわせた推薦となると、さらに時間がかかる可能性がある。
今回の結果は5年間有効で、それまでに正式な推薦書が出されなければ、もう一度事前評価を受ける必要がある。
彦根城は1992年、世界遺産の候補となる暫定リストに掲載された。彦根市などによると、国宝の天守や堀、石垣、大名庭園のほか、御殿や重臣屋敷も遺構が保存され、こうした江戸時代の城の特徴がそろって保存されている国内唯一の例という。
しかし、姫路城(兵庫県)が93年に世界遺産登録され、同じ近世城郭として差別化に難航。暫定リスト記載から30年以上が経過していることを踏まえ、今後の方向性を検討する必要があるとした文化審議会の意見を受け、昨年9月に事前評価の申請書を提出していた。
近年、江戸時代の大名統治システムを価値に据え、「250年間にわたって安定した社会秩序を形成・維持した江戸時代の大名による政治の仕組みを象徴的に伝える、最も残りの良い城」と説明している。(筒井次郎)
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。