60回目を迎えた今秋の「京都非公開文化財特別公開」は、昨年のほぼ倍の28カ所で開かれる。京都市内の寺社など17カ所に加え、京都府北部の11寺社も参加する。開幕を前に、NHK大河ドラマ「光る君へ」に藤原道長の従者・百舌彦(もずひこ)役で出演している京都出身の俳優・本多力さん(45)が、知恩院と廬山寺(ろざんじ)を巡った。
知恩院の「三門」と「大方丈」の特別公開は11/1~10、廬山寺は11/11~24。拝観料はそれぞれ大人1千円、中高生500円。
知恩院三門 絶景と極楽浄土の世界
まず訪れたのは浄土宗の総本山、知恩院。東山の華頂山(かちょうざん)のふもとに広大な伽藍(がらん)を構える。
さっそく国内最大級の木造の門が現れた。高さ24メートル、幅50メートル。国宝の「三門」だ。江戸初期の建築の粋が集められた。
急な階段を上って2階へ。眼下に京の街が広がる。
「うわー、絶景ですね」と本多さん。知恩院執事の秦博文さん(78)は「ビルがなかった江戸時代は、二条城や御所など都全体を見ることができました」。
穏やかな空気が、中に入ると一転する。そこは厳かな仏の世界。十六羅漢像などがずらりと並び、中央に冠をかぶった宝冠釈迦如来が座る。天井には、極楽浄土にすむという空想上の生き物・迦陵頻伽(かりょうびんが)や天女などが鮮やかに描かれている。
しばしたたずんだ本多さん。「昔のものは色が失われることが多いけど、400年前の色彩がしっかり残っている。高い場所にあったここは、まさに極楽浄土だったのですね」
知恩院は徳川家と縁が深い。現在のような伽藍を整備したのは、熱心な信者だった家康だ。本堂の御影堂(みえいどう)などは火災に遭い、3代将軍・家光が再建した。三門は2代将軍・秀忠の命で建立した。
知恩院大方丈 金の障壁画「まさに徳川」
奥にある重要文化財の「大方丈(おおほうじょう)」も、家光が再建した。豪華な書院造りの建物は、将軍が参拝した際の対面所だった。
キュッキュッと音がするうぐいす張りの廊下を進む。各部屋を飾るのは、全面に金箔(きんぱく)が施された「金碧障壁画(きんぺきしょうへきが)」。狩野派が描き、その数なんと166面だ。
「二条城の書院と似たようなものを造ったのです」と秦さん。「再建できたのも財があればこそ。平安時代の藤原道長のようです」
そして、将軍が座る上段の間には武者隠しも。「まさに徳川家のために造ったのですね」。本多さんは語った。
特に印象深かったのは、どの建物も法要などで今も使われ、〝生きている〟ことだった。「400年たっても現役というのがすごいし、それが多分、意味のあることなんだと思います」
一方で、使い続けると建物の傷みにつながり、風や雨を受ける三門はとくに劣化しやすいと教わった。
いずれもふだんは保護のため非公開。今年は法然(1133~1212)が浄土宗を開いて850年の節目でもあり、同時に特別公開される。
廬山寺 紫式部の時代と今「つながってる」
京都御苑のすぐ東にある廬山寺は、平安時代の作家・紫式部の邸宅跡に立つ天台系の寺院だ。
「光る君へ」で、百舌彦としてまひろ(紫式部)の家を何度も訪れた本多さん。本堂の縁側で感慨にふけった。
「この場所にかつてまひろさんが住んでいたかと思うと、つながってるんだなと感じました」。劇団に所属していた学生の頃、近くをよく通ったそうだ。
寺がこの場所に移転したのは安土桃山時代。本堂は、江戸時代に仙洞御所の一部が移築された。「さすがに千年前の式部の建物は残っていません。でも、当時の空気感はあります」と執事長の町田亨宣さん(46)は話す。庭には紫色の桔梗(ききょう)が咲いていた。
本尊は重要文化財の来迎(らいごう)阿弥陀三尊像(平安末期~鎌倉初期)。少し腰を浮かせて、臨終を迎えた者に駆けつける独特の姿を表している。
特別公開では間近で拝観できる。手を合わせた本多さんは、感動で泣きそうになったという。800年前とは思えないほどきれいで、優しい姿に包み込まれるような気持ちだったそうだ。
「応仁の乱や幾度もの火災にも遭った寺です。その度に『本尊だけは』と守ってきたのです」と町田さんは語りかけた。
「文化財の保存に、僕も一役」
最後に、百舌彦が仕えた道長の邸宅「土御門第(つちみかどてい)」跡を目指した。実は廬山寺のすぐ近く。歩いて5分ほどの京都御苑にある。ここで「この世をばわが世とぞ思ふ」というあの有名な歌が詠まれた。
特別公開では、拝観料が文化財の修理や維持に役立てられる。国の支援もあるが、各寺社の負担額は大きい。
「文化財というと、何となく守られているものだと思っていました。でも今回、残すことが実は大変なんだと気づきました」と本多さん。「誰かが守り、誰かが修繕する。そういう『力』が必要なんですね。特別公開を通して僕も保存に一役買いたいですし、自分の子どもにも見せたい。そう思いました」(筒井次郎)
ほんだ・ちから 1979年生まれ。実家は京都市内の寺院で9歳の時に得度した。立命館大在学中に劇団「ヨーロッパ企画」に参加し、俳優の道に進む。2005年の映画「サマータイムマシン・ブルース」以降、ドラマや映画に多数出演。NHK大河ドラマ「光る君へ」では初回から藤原道長の従者・百舌彦役を好演している。
秋の「京都非公開文化財特別公開」の案内
【期間】
10月26日~12月8日
【拝観受付時間】
午前9時~午後4時
※東寺は午前8時~午後4時半、八坂神社は午前10時~午後3時半、観音寺・安国寺・正暦寺は午前10時~午後3時(観音寺の説明は午前10時と午後2時の2回)、天寧寺は午後2時集合、智恩寺・縁城寺は午前10時と午後2時集合のグループ拝観(予約先は京都古文化保存協会、縁城寺の11月17日は午前10時のみ)
【拝観料】
(1カ所につき)大人1千円、中高生500円
※東寺講堂・五重塔は大人800円、高校生700円、中学生以下500円
※浦嶋神社は大人800円、中高生400円
※府北部10寺院のうち光明寺は無料、その他は800円
※泉涌寺は別途入山料500円必要
※朝日友の会会員は拝観料割引の特典あり
【主催】
・京都古文化保存協会
Tel 075・451・3313
http://www.kobunka.com/
・公開寺社など
【各種ご案内】
朝日新聞デジタル特集ページ
http://t.asahi.com/n1ir
朝日新聞デジタルの「ライフ」ページにある「寺社・文化財」コーナーでは、全国の寺社や文化財に関する話題をご覧いただけます。
◇公開が延期・中止されたり、公開場所や日程・時間などが変更されたりする場合があります。ご来場の際は京都古文化保存協会のホームページや公式X(旧ツイッター、@kyoto_kobunka)で最新情報をご確認ください。
◇特別公開拝観者を対象にした関連講演会の情報は、京都古文化保存協会のホームページでご確認下さい。
京都市内の17カ所、京都府北部は11寺社が公開
【京都市内】
上賀茂神社 10/26~12/8
大報恩寺(千本釈迦堂) 10/26~12/1
冷泉家(れいぜいけ) 11/1~4
廬山寺 11/11~24
下鴨神社 10/26~12/8
知恩院 三門 11/1~10
知恩院 大方丈・小方丈・方丈庭園 11/1~10
八坂神社 11/16~24
泉涌寺(せんにゅうじ) 舎利殿 11/9~12/1
智積院(ちしゃくいん) 11/23~12/8
東寺 講堂・五重塔 10/26~11/3
阿弥陀寺 11/1~10
隨心院 11/1~12/1
勧修寺(かじゅうじ) 11/1~10
元慶寺(がんけいじ) 11/1~10
鹿王院(ろくおういん) 10/26~12/8(11/6~14休止)
曇華院(どんけいん)門跡 11/18~12/8(11/25終日、12/6午後1時まで休止)
【府北部】
浦嶋神社(伊根町) 11/4~14
光明寺(綾部市) 11/20~24
安国寺(同) 11/20~24
正暦寺(しょうれきじ、同) 11/18~24
観音寺(福知山市) 11/16、18~24
天寧寺(同) 11/20~23
松尾寺(舞鶴市) 11/14~24
金剛院(同) 11/14~24
多禰寺(たねじ、同) 11/14~24
智恩寺(宮津市) 11/15~17
縁城寺(えんじょうじ、京丹後市) 11/15~17
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