韓国の世界遺産に、「赤い絶景」と呼ぶべきものがあります。それは2021年に登録された「ゲッボル:韓国の干潟」。「ゲッボル」とは韓国語で干潟のことで、番組「世界遺産」では、3年前に登録されてからすぐに撮影の準備に入ったのですが、コロナ禍の影響もあってなかなか進まず、今年ようやく放送にこぎつけました。

「赤い干潟」の正体「シチメンソウ」は七面鳥が由来

赤い干潟 満潮時

これは韓国の二番目の自然遺産(最初は「済州島の火山と溶岩洞窟群」)で、韓国南西部の4つの干潟が世界遺産になっています。中でも新安(シナン)干潟は日本の有明海の干潟の約5倍の面積を持つ広大なものです。

新安干潟に現れる赤い干潟

干潟とは引き潮になると現れ、満ち潮になると海に没する浅瀬のことですが、この新安干潟が干潮のときに現れるのが「赤い絶景」。潮が引いていくと、海の中から赤い干潟が出現するのです。番組ではドローンを使って撮影しましたが、美しく幻想的な光景でした。

シチメンソウとたくさんのカニ

赤い色の正体は、シチメンソウという草です。塩分に強く、満潮時に海水に没しても生きていける塩生植物で、秋になると赤く色づきます。そのとき一面に生えているシチメンソウによって、干潟が赤い絨毯のように見えるのです。ただし、いつ、どこのシチメンソウが赤くなるかの正確な予想は難しく、番組が「赤い絶景」の撮影に成功したのはかなり運が良かったようです。

ちなみにシチメンソウというのは和名で、緑から赤へと色が変化する様子が、興奮の度合いによって顔の色が青・紫・赤などと変わる七面鳥と似ているので、「七面草」と名付けられたといいます。日本の有明海沿岸でも見ることが出来ますが、環境省によって絶滅危惧種に指定されている貴重な植物です。

ムツゴロウとたくさんのカニ

「ゲッボル:韓国の干潟」が世界遺産になったのも、渡り鳥など絶滅の危惧のある生きものや固有種が干潟に生息しているからです。干潟の生命は豊かで、潮が引くとカニやムツゴロウなどが、ウジャウジャと無数に現れます

“世界一危険な料理”「テナガダコ」漁師は小腹が減ると丸ごと?

タコを食べる漁師

それをシャベルで一気呵成に掘り出して捕まえるという漁で、漁師さんたちは小腹が減ると、捕まえてまだ生きているテナガダコを丸ごと食べていました。

タコを食べるスタッフ

撮影スタッフも勧められて食べてみたのですが、食べ方にコツがあって、慣れないと吸盤付きのタコの脚が鼻の穴に入ってきたりして難儀したとのこと。味はやわらかくておいしかったそうです。

このように韓国のテナガダコは生食可能で、レストランでも「サンナクチ(生きたタコ)」という料理として出しています。ただ、まれに喉にタコが詰まって窒息死する人がいて、「吸盤が喉に吸い付いて詰まる」とか「世界一危険な料理」などという記述もネットでは散見します。おどり食いでタコを喉に詰まらせるのは多くは高齢者のようで、日本のお餅と似ているように思いました。

1000の島々と新安干潟

新安干潟のある海には1000以上の島々が浮かんでいます。川が運んだ土砂が島と島の間に堆積し、約11万ヘクタールもある広大な干潟が生まれました。さらに干潮時と満潮時の海水面の差が約6メートルもあり、それも大きな干潟となった理由です。干満差が大きいほど、引き潮のときに現れる浅瀬が広くなるからです。

同じ場所でありながら、刻一刻と景観が劇的に変化していく干潟。「ゲッボル:韓国の干潟」は、きわめてテレビ向きの映像が撮れる世界遺産です。

執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太

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