母親を不慮の事故で亡くしたパリスは、真相を突き止めるべく謎めいた湖の奥深くへ入っていくが MAXーSLATE
<M・ナイト・シャマラン監督が放つ新作ミステリーはお得意のタイムスリップも逆効果。マニアックなファンには残念な出来(かも)──(レビュー)>
ミステリースリラーの鬼才M・ナイト・シャマラン製作の映画『キャドー湖の失踪』。ワーナー・ブラザース・ディスカバリーの動画配信サービス「Max」の新作で、監督・脚本は『きっと地上には満点の星』のセリーヌ・ヘルドとローガン・ジョージ。主演はエリーザ・スカンレンとディラン・オブライエンだ。
テキサス州カルナックのキャドー湖で8歳の少女が失踪。それをきっかけに湖で次々と不可解な出来事が起きる。予告編を見るとSFチックなタイムスリップもののようだが、シャマラン映画の真骨頂とも言うべき『トラップ』並みの傑作なのか。
Caddo Lake | Official Trailer | Max
以下、マニアックなファンに代わって、気になるところを一つ一つ分析しながら、Q&A形式でまとめてみよう(以下ネタバレ注意!)。
◇ ◇ ◇──テキサス州カルナックで何が起きているのか。
まず登場人物の関係を整理しておこう。主役は2人。1人はエリー(スカンレン)で、失踪事件が起きた2022年の時点で10代後半から20代前半(卒業を1学期早める話をしているので大学生らしい)。母親のセレスト(赤毛だと言っておく)とはうまくいっていない。
実の父親はエリーが赤ん坊の頃に失踪、今の父親のダニエル(エリック・ラング)は母親の再婚相手だ。8歳の妹アナはダニエルの連れ子だが、姉妹仲はいい。
ある日、エリーは母親と言い争いになる。その日を境に事態は急展開。翌朝エリーは電話でアナがいなくなったことを知らされる。
もう1人の主役はパリス・ラング(オブライエン)。20代くらいの青年だ。2003年、パリスは数年前の母親の死から立ち直れずにいる。母親は運転中に発作を起こし、車ごと橋の上から湖へ。同乗していたパリスは脱出したが事故のショックを引きずっており、赤毛(!)のガールフレンドも彼と別れて町を去っていった。
当時よりはいくらか立ち直ったように見える頃、別れたガールフレンドが町に戻ってくる。彼女とよりを戻した矢先、湖を調べていたパリスは奇妙な感覚に襲われ、母親の死の真相を突き止めることに取りつかれる。
──不気味な湖、失踪した少女、しかも年齢の違う赤毛の女性が2人とくれば......ひょっとしてタイムスリップ?
正解。パリスは母親が事故死した場所を調べている最中に、エリーは失踪した妹を捜している最中に、湖で違う時代に通じる「スポット」を発見する。
そして実際、パリスは偶然1952年にタイムスリップして8歳のアナに出会う。一方、エリーは2005年にタイムスリップし、子供を抱いたパリスのガールフレンドに出くわす。言うまでもなく、この女性がセレストで、赤ん坊はエリー自身だということが判明する。
──パリスがエリーの父親というのは簡単に察しがついたが、だとするとアナは......。
......そう、エリーの祖母だ。それを知ったエリーはネットカフェで1952年から始まっているアナの記録を調べ、彼女が幸せで元気に成長したことを確かめる。アナはやがてパリスを出産することになる。
これが予想外の展開その2? 個人的にはアナがパリスの母親だったことのほうが、パリスがエリーの父親だったこと以上に驚きだ。
──ということは2005年のエリーは1歳前後、22年には17歳ぐらいのはず。なぜ大学卒業のことで悩んでいるんだろう。
全く不可解、ミステリーだ。
──このタイムスリップの法則は? なぜ誰も気付かなかったのか?
法則? タイムトラベルもので? それは欲張りすぎだろう。ただ、具体的なメカニズムは不明だが、タイムスリップできるのは湖の水位が下がったときだけということは分かっている。
──ダニエルはエリーの義理の父親で、曽祖父でもあるわけか?
そのとおりだが、セレストとエリーは、パリスが故意に失踪したわけではなくタイムスリップして戻れなくなったこと、アナにも同じことが起きることを悟る。
──パリスは2003年に戻れるのか?
戻ろうとするが、なぜか2022年にタイムスリップし、湖の「スポット」付近でアナが乗っていたボートを発見。そのボートに乗って、自分が今どこにいるのかを突き止めようとする。
だがアナを捜索していた捜査官たちに見とがめられ、失踪した8歳の少女が乗っていたボートに乗っている不審者として身柄を拘束されて......。
──このタイムスリップの部分は間違いなく問題だろう。大人になったアナは自分が未来から来たようなことを口にする?
アナが1952年へと「失踪」してから何を考え、どんな人生を送ったのかは、残念ながらよく分からない。彼女が違う時代から来たと言っていたという話は、パリスも彼の父親もしない。
それでもパリスは母親(アナ)の発作の記録を手がかりに、湖の水位が下がるたびに発作が起きていることを突き止める。タイムスリップするたびに事故死したときと同じ症状が起きていた。
アナは数年おきに2022年に「里帰り」していたのかもしれないし、別の時代に通じる「ドア」をくぐれば誰でも同じ発作を起こすのかもしれない。あるいは意味なんてないのかも。映画なんだから。
──詳しいネタバレをどうも。で、結局、シャマラン作品として満足のいく出来なのか。
はっきり言って不条理だらけ。オブライエンは素晴らしいが、典型的なシャマラン作品を期待したら裏切られるだろう。予想外の展開に飢えている人にはいいかもしれないが、「『トラップ』並み」を期待してはいけない。
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