日本の世界遺産には、紅葉の名所がいろいろとあります。番組「世界遺産」でも度々撮影してきたのですが、特にドローンで上空から撮ると、緑の森の中に黄色、オレンジ、緋色と暖色系の木々が点々と入り交じり、印象派の絵画のような美しさです。

人がつくった絶景 京の名庭園

天龍寺の曹源池庭園

特に印象深かったのが、京都の世界遺産「天龍寺」。ここの曹源池庭園(そうげんちていえん)は日本を代表する庭園のひとつです。

天龍寺の曹源池庭園の水面に映る紅葉

紅葉のシーズンに庭に面した方丈から眺めると、色づいた木々が池の水面にも映り、庭園の背後にはやはり色づいた嵐山が借景として広がる…番組がこれまで撮影した紅葉の中でも特に美しいシーンです。

植林されてきた嵐山のカエデ等

一見、自然の森のように見える嵐山の森にも、実は人の手が入っています。曹源池庭園が作られたのと同じ約700年前から、カエデやサクラなどが植林されてきました。

紅葉で色づく嵐山の森

現在でもその多くが国有林で、植生は人の手によって管理・維持されています。庭園そのものと借景の嵐山が一体となった眺め、それはまさに人がつくった絶景だったのです。

偶然が生んだ紅葉の名所

紅葉谷には約700本のカエデ

宮島の最高峰・弥山の麓にあり、秋になると約700本ものカエデが鮮やかに赤くなりますが、実は江戸時代から植林してきたもので、ここも人がつくった絶景なのです。江戸時代のもみじ狩りの様子を描いた絵図も残っており、当時から日本人が紅葉を愛でてきたことがよく分かります。

豊国神社は外壁の一部が未完のまま

宮島には、人と偶然が生み出した紅葉の名所もあり、そこも番組で撮影しました。世界遺産「嚴島神社」の末社・豊国神社の「床もみじ」です。

豊国神社と大銀杏

この神社は約450年前に豊臣秀吉が建立を命じたものですが、途中で建設がストップして、一部の外壁がない未完のまま。さらに社殿は丘の上に建っているのですが、丘の麓から高さ20メートルの大銀杏がそびえ、その大銀杏の中段がちょうど社殿の中から抜けよく見える位置に達しています。

豊国神社の床もみじ

そして秋のシーズンになると、黄色く色づいた大銀杏の姿が、社殿の床に鏡のように映るのです。この神社の床や柱など建物の約8割が建設当時のままで、450年という時の流れが床に磨きをかけてきました。「床もみじ」は、こうしたいくつもの偶然と人の営みが生み出した紅葉の絶景です。

合掌造りを支える山の木々

世界遺産「白川郷と五箇山の合掌造り集落」

この里山の森も、昔から伐採や植林を繰り返してきた二次林で、人の手が入ったものなのです。里山はいろいろな形で利用されてきましたが、合掌造りの建材にも山の木々が使われています。梁にはアカマツ、床には耐久性のあるスギやヒノキなどなど。

ミズハリには水に強いクリの木が使われた

特に合掌造り最大の特徴である茅葺きの屋根の棟を固定している部分には、クリの木が使われています。番組でも撮影しましたが、茅葺き屋根から横にいくつも突き出している角材がそれで、「ミズハリ」と呼ばれます。ミズハリは雨風にさらされるため、特に水に強いクリの木が使われているそうです。クリの木も里山にあり、秋になると色づきます。

岐阜県・白川郷

世界遺産で見ることが出来る紅葉の絶景、人がつくったもの以外にも白神山地や富士山麓などの自然が生み出したものも多々あります。こうした日本の世界遺産で撮った紅葉シーンをまとめた特集を放送すべく現在制作中です。

天龍寺の方丈から撮影した庭園

そのため日本各地のさまざまな紅葉を見直しているのですが、夏から秋になって一気に冷え込むと木々は鮮やかに色づきます。まさに四季のある国ならではの美しさだと、番組を作りながら再認識した次第です。

執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太

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