ドラマでは室内のセットでの撮影ほかに、野外でリアルな風景を使い撮影するロケ撮影というものがある。ロケ撮影を行うため、脚本や作品の構想にマッチする最適な場所を探すのがロケーション・ハンティング(以下、ロケハン)の役割だ。
TBS日曜劇場枠で放送中の『海に眠るダイヤモンド』では、神木隆之介を主演に据え、1950年代からの端島(長崎県)と現代の東京を結ぶストーリーが描かれている。物語の舞台となる端島は、岩礁の周りを埋め立てて造られた海底炭鉱の島。日本で初めて高層鉄筋コンクリートのアパートが建てられ、最盛期には約5300人もの人が住み、世界一の人口密度を誇るほど賑わっていた。
そんな特殊な環境の端島の映像化に挑戦している本作だが、今はもう見られないはずの端島の光景は、一体どこで撮られたのだろうか。制作陣も撮影場所に頭を抱えたという制作の舞台裏を、制作担当の大藏穣氏に聞いた。
困難を極める今はなき活気あふれる端島の再現「裏方として挑戦的な企画に」
端島は「明治日本の産業革命遺産 ~製鉄・製鋼、造船、石炭産業~」の産業遺産群の一つとして、世界文化遺産として登録されており、現地での長期に及ぶドラマ撮影は難しい。そのため美術部が作ったセットに加え、端島に見える場所を探して撮影している。塚原あゆ子監督からロケハンチームへのリクエストは、とにかく端島に見える場所を探してほしいという一点のみ。「これがシンプルで一番難しい。端島は狭い面積に鉄筋コンクリート造高層マンションが立ち並ぶ”緑なき孤島”という、とても特殊な場所なので、裏方としてはとても挑戦的な企画でした」と、大藏氏が本作で与えられた大きな課題を明かす。
“存在し得ない場所を探す”という前代未聞のロケハンが始まったのはクランクインの約4ヶ月前。関東近郊に1950年代の時代観を表現できる場所は少なく、地方まで視察に行く必要があるとわかっていたため通常よりも早めに動き出したそうだ。
ロケハン担当者は、制作にあたりまずは台本を読み、そこでの俳優の芝居の動きを自分なりに考える。そして、それを元に見つけた場所を監督にプレゼン。提案通りに使われることもあるが、監督のアイデア次第で意外な使われ方をすることもあるという。「塚原監督は、その場所で撮る次のシーンとのつながりも考えている」と話す大藏氏は、ドラマの撮影事情についても教えてくれた。
「劇中の設定では近い距離にA・B地点があったとしても、実際にはとても離れた場所で撮影していることも多いです。そのため場所選びを間違えると、同じ場所なのにA地点では海から太陽が昇り、B地点では夕日が海に沈むなんてことが起きて辻褄が合わなくなってしまう。だから、景観はピッタリだけどボツになる…なんてことも。それだけ太陽の位置や向きを考慮しているからこそ、きれいな映像になっているのだと思います」と、リアルを追求する塚原監督のこだわりにも言及。
また、炭鉱でのシーンもリアルを求め実際の鉱山で撮影しているという。「撮影でお借りしているのは山にある炭鉱なので、気温35度・湿度80%の端島の海底炭鉱とは違い、中はかなり寒い。環境は違えどキャストの皆さんも炭鉱員として働く厳しさを実感していたと思います」と、本作ならではの撮影エピソードを明かしてくれた。
驚愕のオープンセット――大規模セットを建てる場所を求めて
さらに、「端島銀座」を再現したオープンセット(野外にある装置)は、長期の撮影でも倒れないように躯体を活かして建てられている。こういった壮大なオープンセットを建てる場所を探すのもロケハン担当者の役割で、この場所を見つけるのにも別の苦労があったそうだ。「立地条件としては、長期間セットを建てておくことができ、撮影に適している環境であること。また、大掛かりなセットなので、倒れないようにするための技術的な条件を最低限満たしていることもポイントでした」と、いくつもの条件をクリアした場所であったことを教えてくれた。
とはいえ、リアルな風景だけで端島を再現するのには限界がある。そこで活躍しているのが先ほども登場したVFX技術だ。大藏氏も完成映像を見て驚いたという。「純粋にすごいなと思いましたし、もしかしたら視聴者の皆さんはほぼグリーンバックで撮影したフルCGだと思ってるんじゃないかな。美術部さんや僕らロケハン担当としては少し悲しいですが(笑)」と、笑いを誘った。
ロケハンは足で地道に…驚愕の移動距離と、撮影チーム全体への知られざる配慮
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