谷川俊太郎さんが92歳で亡くなった。現代日本を代表する詩人として有名だが、アニメ「鉄腕アトム」の主題歌の作詞も手がけた。私(筆者)は2022年12月、谷川さんに取材した。その時、語っていたこととは――。
そらをこえて ラララ♪
この主題歌はいまでも、JR山手線高田馬場駅(東京都新宿区)の発車メロディーに使われるなど、時代を越えて親しまれている。
1963年元日、漫画家、手塚治虫さん(1928~89年)原作の連続テレビアニメ「鉄腕アトム」(フジテレビ系)が始まった。最高視聴率40%をたたき出す大ヒット作となった。放送開始60周年を前に、テレビ黎明(れいめい)期の製作現場で奮闘した当時20~30代のキーパーソンたちを取材した。その一人が谷川さん(取材時91歳)だった。
「電話で『やってみないか』とあっさり頼まれた感じです。最初の詩集が『二十億光年の孤独』という題名だったので、何となく宇宙と関係がある詩人じゃないかと思ったんじゃないかしら」
谷川さんはそう思い起こした。手塚さんとは面識はなかった。それまで歌の作詞をしたことはあったが、曲先(メロディーが先にあって後から歌詞を乗せる方法)は初めてだったという。
「動く絵にメロディーが乗っているというのは、現代詩を書いている人間にとってはすごく新鮮なメディアなんです。詩はどうしても言葉を重視するのですが、あの場合(アトム)は歌詞が意味ありげなことを言わない方が良いと思いました」と語った。主題歌は大ヒットした。
放送開始から60年たってどう感じているのかを尋ねると、こう答えた。
「現代詩はあまり人に読まれないので、何かというと『アトムの作詞家』って言われちゃいますね。手塚さんのおかげなんだけど、自分も、(アトムの人気に)少しは寄与したなって感じがして、うれしいですね」
実はこの時の取材は電話だった。取材の趣旨を話すと、「それならこの電話で大丈夫ですよ」とのことだった。それから約2年後の訃報。直接お会いできなかったことが悔やまれる。【後藤豪】
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