健康機能性に注目が集まっている

穀物などに麹菌を増殖させた「麹(こうじ)」は、日本食に欠かせないものである。日本の伝統調味料である味噌(みそ)、醤油(しょうゆ)、日本酒、みりんは麹を使って造られており、発酵の力で食べ物のおいしさを引き出す。近年その魅力が世界に知られるようになり、星付きレストランのシェフなど、アンテナを高く張った料理人たちの間で認知度が高まっている。

日本では、麹から造られた調味料の塩麹や甘酒が、数年前に一大ブームとなった。これをきっかけに麹の健康機能性が注目されるようになり、さまざまな研究の結果、麹を積極的にとることが健康づくりや美容に役立つと分かってきた。

例えば、麹で作る甘酒は「飲む点滴」「飲む美容液」とも呼ばれる。主な甘味成分のブドウ糖は、速やかに体に吸収され、脳や体を動かすエネルギー源となる。他にも、ビタミンB群や必須アミノ酸、オリゴ糖、食物繊維などが多く、腸内環境の改善や疲労回復、アンチエイジングなどの効果が期待できる。

酒粕(かす)で作る甘酒もあるが、麹の甘酒はアルコール分を含まないので子供やお酒に弱い人も安心して飲める。濃厚な甘みがあるが砂糖を使っていないので健康的だ。

麹を多くとるなら「白味噌」と「甘酒」

私は栄養士の資格を持つ料理家として、自分の使う食材を「どこの誰が、どんな思いで、どのように作っているか」きちんと知ることが肝心、という理念を持っている。それは調味料一つとっても同じで、中でも魅せられたのが味噌である。

「みそ探訪家」を名乗り、日本各地の味噌蔵を97カ所訪問(2024年4月現在)。自宅には常に50種類以上の味噌があり、180種類以上を自作してきた。味噌造りをはじめとしたワークショップや料理教室も多く開講している。

特に好評なのが、炊飯器で手軽に作る「白味噌」と「甘酒」だ(炊飯器がない場合は「甘酒の作り方」末尾を参照)。麹を多くとれるので、健康・美容志向の人にも喜ばれている。ここでは、作り方とお勧めの使い方を、一般的な白味噌と甘酒の特徴とともに紹介しよう。


炊飯器で作った白味噌(右)。粒が気になる場合はフードプロセッサーにかけると市販品(左)のように滑らかになる

〈水煮大豆でお手軽 白味噌〉

【材料】

(出来上がり目安量=650グラム、塩分濃度は約5%)

  • 水煮大豆…230グラム(乾燥大豆で100グラム相当)
  • 米麹(乾燥)…300グラム
  • 塩…30グラム
  • 水…250ミリリットル

【作り方】

(1)大豆をマッシャーなどでつぶす。

(2)米麹と塩を混ぜる(先に混ぜておくと大豆と均一に混ざりやすい)。

(3)炊飯器に(1)と(2)、水を入れてよく混ぜる。

(4)ふたを半開きにしたまま、上からタオルをかけ、保温モードで6時間おく。


55度前後が保温に適する。炊飯器のふたを完全に閉めると温度が高くなりすぎてしまう

(5)完成。清潔な容器に移して粗熱を取り、ふたをして冷蔵庫で保存する。すぐに食べられるが、冷蔵庫で1週間寝かせると味がなじむ。

冷蔵で1カ月、冷凍なら6カ月ほど保存可能。カチカチに凍らないので解凍せずに使える。

白味噌ってどんな味噌?

味噌とは一般的に、蒸し大豆または煮大豆に麹と塩を加えて熟成させたもので、地域ごとの食文化に合った色や味わいが受け継がれている。平安時代に王朝文化の産物として京都で発祥したとされる白味噌は、その名の通り色が白く、甘いのが特徴。砂糖の代わりとして和菓子などに使用され、その後、精進料理や懐石料理に欠かせないものとして普及した。

味噌は熟成期間が長いほど色が濃くなるが、白味噌の熟成期間は数日から1カ月程度と、通常よりずっと短い。一般的な淡色味噌は大豆と麹の割合が1:1程度であるのに対し、白味噌は1:2以上と麹の量が多い。麹が多いほど甘くなる。一方、塩の量は淡色味噌が10~12%であるのに対し、白味噌は5~6%と半分程度だ。

アレンジ自在の万能調味料

白味噌の使い道は、酢と合わせて「酢味噌和え」にしたり、関西では正月のお雑煮にしたりといったところが一般的だ。しかし、さまざまな味噌料理を研究してきた私にとって、白味噌は万能調味料であり、世界中の人に使ってほしい素晴らしい食材である。

白味噌は淡色味噌や赤味噌のようにしょっぱくなく、そのままでも食べられるほどマイルドな味わいだ。少し塩気のある白いあんこか、コクのあるホワイトチョコレートのような味を想像してほしい。

私は料理をミルキーにしたいとき、例えばカルボナーラやクリーム煮などを作る際、生クリームの代用として白味噌を使う。乳製品にアレルギーのある人や、カロリーを控えたい人にも最適だ。

ちなみに、白味噌を料理に使うときは、淡色味噌の倍量を目安にするといつもの塩加減になる。倍量を使えば、摂取する大豆の量も自然と倍になる。つまり、普段の味噌を白味噌に変えるだけで、麹の栄養だけでなく、大豆の良質なタンパク質と豊富な食物繊維も多めに補給できる。

色の白さを生かした使い方も楽しみたい。例えば、梅干しを包丁でたたいて白味噌に混ぜると、ピンク色の梅味噌になる。バジルの葉など色鮮やかな野菜をつぶして混ぜれば、きれいな色のピューレやソースになる。


フードプロセッサーで作ったバジル味噌。さわやかな香りが、グリルした肉や魚に合う

白味噌は自己主張が強くないので、さまざまな食材と相性が良い。酸味のある粒マスタードや辛みのある豆板醤などと合わせると、バランスよく相手を引き立てるディップになる。ティラミスを作る際、マスカルポーネチーズに混ぜると一段とコクが出る。イチゴやキウイなど甘酸っぱい果物や、ドライフルーツに合わせても美味だ。

〈これ以上シンプルにできない甘酒〉

甘酒の歴史は古い。奈良時代の720年に完成した歴史書『日本書紀』に、甘酒の起源といわれる「天甜酒(あまのたむざけ)」についての記述が残っている。続く平安時代には、宮中の貴族らが「夏の飲み物」として冷やし甘酒を楽しんでいたそうだ。現代では「冬の飲み物」というイメージもあるが、実は俳句では夏の季語だ。


甘酒には健康・美容効果がある

【材料】

  • 米麹(乾燥)…200グラム
  • 水…400ミリリットル

【作り方】

(1)米麹を手でほぐし、水とともに炊飯器に入れる。

(2)ふたを半開きにしたまま「保温」モードにし、炊飯器の上からタオルをかけて8時間おく(白味噌の作り方(4)を参照)。

※保温6時間で甘さ控えめ、10時間超だと濃厚になる。15時間以上は酸味が出るので注意。

(3)完成。清潔な容器に移して粗熱を取り、ふたをして冷蔵庫で保存する。

冷蔵で1週間、冷凍なら6カ月ほど保存が可能。使うときは自然解凍する。

甘酒はとても甘味が強いので、飲むだけでなく、コーヒーに入れる、煮物を作るときに入れるなど砂糖代わりに使ってもよい。ネギやニンニクなどの薬味を刻んだものに甘酒を混ぜ、醤油や味噌で味を調えれば、焼き肉のたれになる。ドレッシングのベースにするのもお勧めだ。

【炊飯器がない場合】

白味噌も甘酒も、保温の工程はヨーグルトメーカーやオーブンで代用できる。

〈ヨーグルトメーカー〉

容器のサイズに応じ、材料を半量にして作るか、2回に分けて保温するなど調整。白味噌も甘酒も、保温時間は炊飯器に同じ。

〈オーブン〉

庫内に布巾を敷き、その上にプラスチックのボウルなどに入れた材料を置く(金属容器を直置きすると熱が伝わりすぎるため)。発酵モード(45度程度)に設定し、白味噌なら8~10時間、甘酒なら10~12時間保温する。

白味噌も甘酒も、このように簡単に手作りできる。日本の伝統的で健康的な食材を毎日の食生活に取り入れて、麹のある豊かな食卓を未来へつなげていきたい。

写真=いずれも筆者提供

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