「富岡製糸場と絹産業遺産群」が世界遺産に登録されてから今年で10年を迎えるのに合わせ、群馬県伊勢崎市は構成資産の一つである田島弥平旧宅(同市)の遺産価値をより知ってもらうため、新たな取り組みを始める。11月に利根川河川敷に熱気球を上げ、上空からの旧宅と近隣の養蚕建物群の見学会を企画。6月からは市内の小学校の社会科の授業で旧宅見学がスタートする。このほか、7月には世界遺産登録から10年を振り返るシンポジウムも市内で開催する。【遠山和彦】
田島弥平(1822~98年)は同市出身の養蚕家で、幕末から明治にかけ養蚕の改良に指導的な役割を果たした。
風通しを重視し、優良な蚕種(蚕の卵)を生産する養蚕技法「清涼育」を体系的に完成させた。安政3(1856)年から自宅の養蚕建物の改良を行い、空気循環を良くする2階建て、瓦ぶき、屋根の上に「やぐら」と呼ばれる窓付き小屋根を設ける建物の原型を世界で初めて考案した。世界遺産の旧宅内には蚕のえさになる桑の葉を保管する桑場、蚕が卵を産み付けた紙「蚕卵紙」を保管する種蔵などが残る。
旧宅のある同市境島村地区は江戸時代から蚕種製造が盛んで、旧宅の周辺には弥平の親類宅など「やぐら」を設けた2階建ての建物群が立ち並び、その中には国の有形文化財「進成館」「有隣館」などもある。こうした養蚕建物群について知ってもらうため、市は熱気球による見学会のほか、秋には建物群をめぐるスタンプラリーも計画している。
旧宅近くには旧境島小学校を利用した案内所を設置。案内所には弥平の著作「養蚕新論」の版木や、明治期に使ったドイツ製の顕微鏡などの資料を展示する。旧宅と案内所には計6人のガイドが交代で案内をしている。
地区は、7月から発行される新1万円札の顔で、田島家と親戚関係にあった実業家、渋沢栄一の出身地・埼玉県深谷市と隣接しており、観光客の増加が期待されている。ガイドの鵜生川修さん(61)は「旧宅にまつわるエピソードを紹介するなど見学者に興味を持ってもらえるようにしています」と話している。
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