イスラエル軍が攻撃を続けるパレスチナ自治区ガザでは、半年に及ぶ戦闘で3万3千人以上が亡くなり、多くの住民が飢餓寸前の状況にある。ただ、イスラエル側でガザの惨状に関心を持つ人は少ない。なぜなのか。小説「突然ノックの音が」などで知られる、イスラエルを代表する作家エトガル・ケレットさんは、人々が自分たちの痛みしか感じられない「選択的共感」に陥っていると指摘する。
昨年10月7日のイスラム組織ハマスの急襲で、イスラエル側では市民を含む1200人の犠牲者が出た。ケレットさんは朝6時半ごろ、警報音で目を覚まし、異常な事態に気づいた。
「テレビのニュースをつけると、ハマスから身を守るために隠れている人たちと電話がつながっていて、彼らは『助けて』と訴えていた。殺されると、応答が途絶えた」。多くのイスラエル人があの日、襲われている人の視点で一部始終を目撃したと証言する。
その経験がトラウマ(心の傷)となり、ガザで生きる市民の痛みを想像できない「選択的共感」という病理を抱えてしまっている、と危機感を募らせる。
「自分自身や自分がくみしようと決めた側の痛みだけを増幅し、そうではない側は無視する」。いま、イスラエル人の多くが、そういう状態だという。
一方で、イスラエルを批判する意見の中にも、感情的で、地域の歴史や相手の置かれている文脈への想像力を欠く状況がみられる、と指摘する。
さらに、イスラエルのネタニヤフ首相が今回の戦闘で、政治家として「選択的共感」をするだけで、問題を解決しようとしていないと批判。「現実の複雑性を認めるところからしか、意味のある議論を始めることはできない」と訴える。(テルアビブ=高久潤)
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