ドラマ「生きとし生けるもの」佐倉陸役(テレビ東京系=5月6日午後8時)
17歳でデビュー。映画「ウォーターボーイズ」や「悪人」「怒り」「ある男」など、見た人の記憶に長く残る演技が光る。そんな名作の数々の中に、新たな一本が加わりそうだ。
本作は、余命を宣告された患者と、メスを握れなくなった医者がバイクに乗って旅をするロードムービー。脚本は「ロングバケーション」(フジテレビ系)など恋愛ドラマの名手として知られる北川悦吏子で、「人は何のために生きるのか」をテーマに描いた。
患者の成瀬翔を渡辺謙が、成瀬の主治医・佐倉陸を妻夫木聡が演じる。成瀬は長きにわたる闘病から、佐倉に「殺してくれ」と懇願する。佐倉はそれをあっさり引き受けるが、「死ぬ前に生きませんか?」と問いかける。佐倉は成瀬の「風を浴びたい」という希望を聞き出し、2人はバイクで旅に出る。
妻夫木は「役者という仕事が好きで、子どもができるまでは『まい進するのみ』という考えでしたが、今は家族ができて、僕は家族のために生きているんだなとはっきり感じるようになりました」と話す。そして、「昔は『今を生きる』という言葉を、臭いなと思っていたけれど、今は身にしみて、コーヒーを飲んでいるその瞬間だけでも幸せを感じられるようになった気がします。この作品を通じて、よりその思いが深くなりました」と続けた。
一方、役作りでは、「何でもやらないと気が済まない」タイプだと明かす。作中にキャンプ場で世界一おいしいウインナーを焼くシーンがあるが、撮影前にソロキャンプを実践してみたという。「想像以上に全てがうまくいかなくて。クーラーボックスの保冷剤があまりに良いもので、ソーセージが固まってしまい、うまく焼けませんでした」と振り返る。「だから、本番のウインナーがおいしすぎて、良い芝居ができたと思いますよ」と笑った。
さらに、「大体、脚本に書いていることは何でもやりたい人なので、おむつを着けて、18時間ベッドの上で過ごしてみるなんてこともしました。本当にキツかったですね」。納得感のある演技は、実践に重きを置く姿勢に裏打ちされるのだろう。
作品のテーマに合わせた「人生の最後にしたいこと」という質問には、「山ほどあります」としつつ、その一つに「海外の作品に出てみたい」を挙げた。
海外の撮影は、日本に比べて本番前のテストを全然しないのだという。「日本のやり方が間違っているとは思わないけど、フィルムの時代はワンカットが大事だから、テストを何度もして、基本的に本番は1回しかやらない文化でした。デジタルになって何テークも重ねるようになり、本番1回にかける情熱が薄まっていると思う」と話した。
本作では、渡辺の「テストなしでやってもいい?」との一声で、あるシーンは本番一発で撮った。「スタッフはどう動くか分からないから大変だけど、『生きている感』がありました。そこは、魂の叫びが表現できたら良いよねというシーンだったからかもしれませんが、久しぶりの緊張感でした」
渡辺とはTBS系ドラマ「池袋ウエストゲートパーク」などで共演。「しっかり(一緒に)お芝居する機会は無かったけれど、(以前から)気さくに話しかけてくれていて、勝手に好きでした。作品には貪欲だけど、人間性としてはおちゃめ」と話す。「謙さんがいると場が和みます。今回、先にクランクアップされて、現場が謙さんロスになりました。そういう特別な存在感を持った方です」と続けた。
自身もキャリアを重ね、若手と共演する機会が増えた。「若い人の意見をきちんと聞いていきたいですよね。新人の時にぽんと感性だけで出てきた時の感じは、若い人にしかない武器。売れたい気持ちが先に出て、こなす芝居になることがありますが、僕は芝居を楽しむことを大切にした方が良いんじゃないかなと伝えています」【諸隈美紗稀、写真・三浦研吾】
妻夫木聡(つまぶき・さとし)さん
1980年12月13日生まれ。福岡県出身。主演ドラマは大河ドラマ「天地人」、「Get Ready!」など。22年の映画「ある男」で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。
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