建築家の安藤忠雄さん(82)が3月31日、「人生100年 青春を生きる」と題し、自らが設計した美術館「森の中の家 安野光雅館」(京都府京丹後市久美浜町)で講演した。人口減少が続く日本の社会について「家族がいなくなった社会は終わる。どの地域もその地域らしく生きていくことが大切」と強調。「地域に根ざして生きていくため、そろそろ自分の頭で考えないと、この国はもたない。土地のある人は耕し、食料自給率を今の倍以上引き上げるべきだ」と呼びかけた。【塩田敏夫】
同館は2017年、料亭などを手がける「和久傳」が創業の地である京丹後市の「和久傳の森」の中に開館した。世界を旅した画家、安野さんの作品を多数所蔵、展示している。植物学者の故宮脇昭さんの指導で周囲は植林され、森が育っている。和久傳の大女将(おかみ)、桑村綾さんによると、安藤さんは依頼された設計を断るつもりで現地を訪れたが、美しい森を一目見て設計を快諾したという。
安藤さんは「自分が産んだ(設計した)から育てる」と宣言し、毎年のように同館を訪れ、講演を続けている。
250人が参加したこの日の講演では、日本の戦後の歩みについて「金もうけだけで、自分の頭で考えてこなかった」と危機感をあらわにした。学歴主義にとらわれ、社会が硬直化していると指摘した。
自身の人生を振り返り、「中学校の成績は50人学級で下から3番目だったが、トンボ捕りや野球をやってチームでものごとを動かすことを肉体で覚えた」と語った。そして、25歳の時に世界を旅した体験を披露し、「神戸港に着いた時は5000円しか残っていなかった。日本人は日本で生きているが、地球はひとつであることを実感した」と語った。
そのうえで、「自分は学校の成績は悪く、経済的にも厳しくて大学には行かなかったが、寺社が多い京都、奈良に出かけて自分で建築の勉強をした」と振り返った。そして、「人間力が勝負だ。最初の一歩は自分で歩くことだ。小澤征爾さんが師の斎藤秀雄さんを見つけ、大江健三郎さんが渡辺一夫さんと出会ってフランス文学を志したように、人間には直感力が必要だ。誰が面白いかを見抜く力だ」と語った。
安藤さんは本を読むことの大切さを呼びかけ、全国で子ども図書館の建設を進めていることも語った。「(主宰する)事務所も女房ももうお金はないと言うが、(建設運動を)これからもやっていきます」と語った。
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。