製作発表で思いを語る平松恵美子監督(左)と実行委員長の渡辺一司さん=岡山県倉敷市役所で2024年4月10日午前10時38分、平本泰章撮影

 コロナ禍では、日本の各地で予告なしのサプライズ花火が打ち上げられた。観客が集まるのを防ぎながら、奮闘する医療従事者へ感謝の気持ちを示し、活動が制限された子供らを元気づけるためだった。そんな花火に着想を得た映画製作が、白壁の古い町並みが残る岡山県倉敷市を舞台に進んでいる。

 メガホンをとるのは、同市出身の平松恵美子監督(57)。山田洋次監督の「学校」(1993年)に助監督として参加し、その後長年にわたって山田作品の助監督や共同脚本を務めた。2012年公開の「ひまわりと子犬の7日間」で監督デビューした。

「蔵のある街」パイロット版の1シーン=実行委員会提供

 計画中の映画のタイトルは「蔵のある街」。ヤングケアラーの友人を勇気づけるため、高校生たちが自分たちの手で、市内中心部にある観光地・美観地区にある小高い山から、花火を打ち上げようと奔走する姿を描く。

 女子高校生の母親役でMEGUMIさん、高校生たちが入り浸るジャズ喫茶のマスター役で前野朋哉さんと市出身の俳優が出演。その他のキャスト10人程度は、6月に市内で開催するオーディションで選ぶ予定だ。

 製作のきっかけは、故郷で暮らす幼なじみとの会話だった。

 市内に住む渡辺一司さん(57)は、地域のコミュニティー協議会で活動している。コロナ禍でさまざまな活動が制限されてしまった子供たちを勇気づけようと、サプライズの打ち上げ花火を企画し、20、21年に2度実行した。しかし、安全性を考慮して反対する近隣住民がいたり、行政や警察と折衝に奔走したりと苦労が続いた。

 帰郷した時に、渡辺さんからその経験を聞いた平松監督は「映画の題材になるかもしれない」と感じた。「みんなを元気づけようと花火を上げるのは無償の行為。私の中で、とても倉敷らしいと思った」

 22年2月に簡単な脚本が完成。5月に有志約10人が実行委員会を立ち上げ、渡辺さんが委員長になって、資金集めに走り回った。

 昨年4月に文化庁の補助金が不採択になって一度は諦めかけたが、平松監督の提案で物語のあらすじをまとめた約20分のパイロット版を撮影。昨年10月と12月に上映会を開くと、企業や行政の協賛を得られるようになり、今年に入って本編製作に向けて動き出した。

 製作費を支援するため、倉敷市は「企業版ふるさと納税」を活用し、5930万円を上限に12月20日まで寄付を募ってバックアップする。同市観光課の担当者は「作品を通して倉敷の受け継がれた歴史、文化、町並みの美しさなどの魅力を全国、世界へ発信してほしい」と期待する。

 完成した映画は全国ロードショーだけでなく、コロナ禍に日本各地で花火が打ち上がったように、各地で地域の人々の手で上映会を開いてもらう計画もある。実行委の辻信行さん(57)は「私たちと同じような熱量を持った同志を募りたい」と力を込める。

 平松監督は「子供たちに夢を与えるとともに、古い町並み、山や海に恵まれた倉敷を映像に残し、後世に伝えたい」と意気込んでいる。

 映画は2025年7月公開予定。今年7~8月には、市内で撮影が行われる予定という。【平本泰章】

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