病気の母と2人暮らしの貧しい青年マルコは、地下格闘で日銭を稼ぐ日々を送っていた。ある日、マルコが大富豪の非嫡出子だという事実が発覚。途端に彼は、方々から命を狙われることになる。

 物語の筋だけを並べると主人公は明らかにマルコなのだが、不思議なことに、映画の中で光を放つのは別の男。マルコを付け狙う妖しく美しいその男は、激しい暴力性と破壊力を見せつける半面、妖しいほほ笑みで観客を含む全ての人間ををけむに巻き、翻弄(ほんろう)する。

 彼はマルコの味方なのか敵なのか。そんな物語の中核が、次第にどうでもよくなり、気付けば、狂気に満ちた瞳に吸い込まれ、身動きが取れず、何をされるのか分からない状況に、どっぷり身をささげていた。好きにしてください。ほほ笑みと共に向けられた銃口が、私に向かって火を噴くことを想像し、今夜も眠れない。(桜坂劇場・下地久美子)

◇同劇場できょうから

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