政府の新しい資本主義実現会議は7日、実行計画改定版の原案をまとめた。私的年金の個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)に関して「拠出限度額の引き上げ」の検討を明記するなど、働く世代の資産形成を後押しする考えを示した。投資への動きを活発にする政策の新たな柱に位置づけ、所得向上を狙う。

議長を務める岸田文雄首相は会議で「物価上昇を上回る所得を実現し、来年以降に物価上昇を上回る賃上げを定着させるべく、政府をあげて取り組みを強化する」と訴えた。

原案では冒頭で「これまでの新しい資本主義の取り組みの方向性は正しかった」と表明した一方で、「デフレ脱却への道は、いまだ道半ばだ」とも記した。物価上昇で貯蓄の目減りが懸念されるなか、投資を通じた所得向上は脱デフレに欠かせない。

首相は「資産運用立国」をかかげ、賃上げの定着とともに施策の強化をめざす。原案には「勤労所得の拡大にくわえて金融資産所得を増やす」と明示した。

金融庁資料によると、家計の金融資産は2022年までの20年間で米国が3.3倍に、英国が2.3倍に拡大したのに対し、日本は1.4倍にとどまっている。米国では巨大テック株の株価が特に上昇したという環境の差があるものの、日本の家計の過半が預貯金となっていることから資産高の恩恵を受けにくい構図が浮かび上がる。

資産運用を後押しする目玉のひとつがイデコだ。首相は7日の会議で「資産運用立国を推進し、イデコについて大胆な改革を検討する」と発言した。原案でも「加入可能年齢の上限の引き上げのみならず、資産形成の必要性に応じた拠出限度額の引き上げ」の検討を打ち出した。

イデコの掛け金は所得税などの金額を計算する際に所得から差し引ける。運用益は非課税で、受け取る際の税優遇もある。多く積み立てることができれば、利益の増大の可能性は高まる。

1月に始まった新しい少額投資非課税制度(NISA)は個人マネーの投資への動きを促進した。日経平均株価は3月に初めて4万円を突破した。経済官庁幹部は「イデコはNISAに次ぐ第2の柱になる」と強調する。

実行計画の原案では公務員年金など公的マネーを積極運用に回す方針も盛り込んだ。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)にならって運用担当の責任者を置き、リスクの高い資産への投資や損切りにも対応できるような体制強化を視野に入れる。

国家公務員共済組合連合会(KKR)や地方公務員共済組合連合会、日本私立学校振興・共済事業団などを対象とする見通しだ。GPIFに続く「第2のクジラ」となる巨額マネーが市場に投下されれば、投資環境はさらに活発になる。

金融庁で銀行・保険・証券の監督担当課に並ぶ資産運用担当部署を設置することも盛った。「資産運用業が日本の金融業の中で銀行・保険・証券に並ぶ第4の柱となるよう業界の発展を継続して推進する」と説明している。

このほか、企業が参入や退出をしやすくする産業革新にも引き続き、取り組む。中小企業などの事業承継を後押しする税制優遇の特例措置を巡り、現行は2024年末となっている後継者の役員就任期限を25年以降に延ばす方向だ。

実行計画は政府の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)と同時期に閣議決定し、25年度の予算編成などの土台になる。成長戦略をより詳細に示す特徴がある。

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