政府は地方自治体に対する国の指示権を拡大する地方自治法改正案を提出し、通常国会での成立を目指している。地方分権一括法で国と地方の関係が「対等」とされてから四半世紀足らず。各地の首長などから「上意下達に逆戻りする」などと懸念の声が上がる。この法案をどう見るか。地方自治、地域主権に取り組む人たちに聞いた。今回は全国知事会副会長(長野県知事)の阿部守一氏。(聞き手・我那覇圭)=随時掲載します
阿部守一(あべ・しゅいち) 1960年生まれ。東大卒。84年に自治省(現総務省)に入省。過疎対策室長のほか、内閣府行政刷新会議事務局次長や長野県副知事などを歴任した。2010年の長野県知事選で初当選し、知事は4期目。地方自治法改正案を巡り、全国知事会の担当者の一人として、「(指示権行使に先立ち)国と自治体が適切な協議・調整を行う」「指示は必要最小限度の範囲とする」ことを国に求める提言を5月にまとめた。
◆「もろ手を挙げて賛成ではないが…」
―国から自治体に対する指示権を拡大する地方自治法改正案は必要か。地方自治法改正案について「もろ手を挙げて賛成できない」と語る阿部守一全国知事会副会長(長野県知事)
「国と自治体の関係に大きな影響を与える法改正で、もろ手を挙げて賛成しているわけではない。だが、未知のウイルスに対応しなければならないような場合、最も情報と知見が集まる政府に頼らざるを得ない。自治体と十分なコミュニケーションを図り、限定的な運用をするという前提であれば、反対までする必要はないと考えている」 ―政府は指示権拡大の根拠の一つに、初期の新型コロナウイルス対応の混乱を挙げている。 「知事としてコロナに対応する中で最も不満を抱いていたのは、現行法にある『技術的助言』という名目による関係府省庁からの事務連絡だった。閣僚名義ならいいが、各担当者が乱発した結果、何らかの問題が起きた場合の責任を最終的に誰が取ってくれるのかが曖昧な状況に陥っていた」 ―改正案は、その問題の解消につながるか。 「大規模な災害や感染症のまん延などが起きるか、起きる恐れがある場合、閣議決定を経て、内閣が責任を持って必要な措置を自治体に指示する内容が盛り込まれている。責任の所在が曖昧な『助言』を乱発されるより、よほどいいと受け止めている」 ―自治体への国の関与を抑制してきた地方自治法の理念に反するという批判は根強い。 「批判の根源を突き詰めると、(強制的な)指示権を行使しようとする政府に対し、どれだけ信頼感があるかというところに行き着くのではないか。政府と自治体間の信頼関係がなければ、どんな法制度も成り立たない。日頃から信頼関係をしっかり築いておくことが大事だ。全国知事会の一員として(改正案の審議の前後で)政府・与党の関係者と面会したが、いずれも地方自治を尊重する必要性は十分に理解してくれていた」 ―今国会の会期末を控え、参院審議が大詰めを迎える。「コロナ対応を振り返っても、政府よりも現場感覚を持っているという自負はある。実情を把握せずにいきなり指示を受けることには当然反対だ。国が指示権をどう行使するかというイメージがわきにくいので、審議を通じて行使のプロセスを具体的に明らかにしてほしい」
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。