福島県国見町の事業をめぐり、町長の責任にも踏み込んだ報告書が27日取りまとめられた。発端となったのは、ずらりと並んだ12台の救急車だ。町が目指していた大手自動車メーカーを超えるような高規格救急車の独自開発。その妥当性が問われている。

6月27日冒頭以外非公開で開かれた国見町議会の百条委員会。
町が計画していた高規格救急車の開発事業を調査するため、2023年10月に設置された。
百条委員会・佐藤孝委員長:「3項目きょう再度議論させて頂いて、まとめると」

企業版ふるさと納税で約4億円の寄附を受けた国見町。それを原資に、町独自の救急車を開発するなどして、新たな産業や雇用の創出を目指していた。
実際に12台が製造されたが、事業を受託した宮城県の「ワンテーブル」との信頼関係が失われたとして事業は中止に。製造された救急車は、伊達消防本部などに寄附された。

福島テレビ・古川峻記者:「こちらが国見町が開発した救急車です。一般の車両がベースになっていて、スライドドアが助手席側にしかないなど、外見上の特徴も見られます」

このような町独自の仕様は、「ワンテーブル」の意向に沿うものだったとみられていて、百条委員会はこれまで「ワンテーブル」の元社長や引地町長などに証人喚問も行い、事実関係を調べていた。

そして、27日まとまった報告書。大手自動車メーカーを上回る高規格救急車を目標にしながらも、開発・製造期間が4ヵ月と非常に短かったことなどから「公正公平な事業ではなかった」と指摘。責任は避けられないとして、引地町長の辞職を求める内容になっているということだ。
百条委員会の佐藤委員長は「行政の責任を果たしてください。それからもう一つは政治責任。これは政治家は1人しかおりませんから、町長としての政治責任も自ら果たせてと(いう報告書になった)」と述べた。

報告書は今後、町議会の臨時会を経てホームページなどで公開するとしている。
一方、町側はこれまで「事業の仕組みや事務の進め方に問題はなかった」と説明している。

<経緯を古川記者が解説>
国見町で進められていた高規格救急車の開発事業は、どのような仕組みになっていたのか?百条委員会が特に問題視しているのは、国見町と備蓄食品製造などを行う宮城県の企業「ワンテーブル」との関係だ。

町などによると、両者が接近したのは2022年2月。民間企業の知見を借りて、行政が新事業を生み出す「国見町官民共創コンソーシアム」の事務局にワンテーブルが参画したことがきっかけとなった。
その直後から、国見町に寄せられるようになったのが、企業版ふるさと納税だ。2022年2月から8月にかけて、匿名を希望する企業3社が約4億3000万円を寄附。「災害・救急車両の研究開発・製造に使って欲しい」という意向が付けられていた。
それに沿うかたちで、国見町はこの4億3000万円を原資に高規格救急車の開発事業を進めることになるが、それを提案したのが「ワンテーブル」だった。

ーーなぜワンテーブルはそのような提案をしたのか?
町は、ワンテーブルと寄附した企業は「関係がない」と住民に説明している。
しかし、関係者によると、救急車を開発・製造する会社とは関係があり、10%のマージンを受け取っていたとみられている。そして、この救急車を開発・製造する企業は、企業版ふるさと納税で寄附した企業のグループ会社だった。
さらに企業版ふるさと納税では、寄附額の最大9割が控除される“税の優遇”措置がある。つまり、企業版ふるさと納税を行った企業は、4億円近い“税の優遇”を受けながら、4億円余りの事業を受注していた疑いが指摘されている。
国見町を“仲介”し、カネが関係者の間で周っていた実態が浮き彫りになった形だ。

27日の百条委員会後、佐藤委員長は「企業版ふるさと納税の制度など一連の流れを見直さなければ、全国の自治体で同じことが繰り返される」と危機感をにじませていた。
町側は「進め方に問題はなかった」としているが、より丁寧な説明がさらに求められそうだ。

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