盛岡市の盛岡大付属高校で3年生を対象に行われている模擬選挙は、「リアルさ」にこだわった異色の形式で知られる。18歳への選挙権が付与され、各地の学校が「主権者教育」に取り組む。今年も7月2日に行われた同校の模擬選挙は、演説する側も1票を投じる側も真剣そのもの。そして気になる開票結果は――。
3年生204人でびっしりと埋まった同校の集会場。最初に登壇したのは自民党岩手県連会長の藤原崇衆院議員(岩手3区)。演説では年金制度について取り上げ「将来、制度が維持されるか不安を持つ人もいるだろう」としながら、5年ごとの人口動向などを基に見直される現在の制度の維持に理解を求めた。
これに対し、日本維新の会の沢田良衆院議員(埼玉15区)は「今、日本にある当たり前の仕組み、例えば年金の仕組みは終わっている。年金の支え手として若い人が支えるのは難しい」と反論。一律にお金を配り、税負担を調整する新たな仕組みの実現を訴え、与野党の主張がぶつかり合った。
模擬選挙は一般的に、架空の政党に投票する形式が多いとされるが、同校は数年前から実際の政党関係者を招いて実施している。今年も国会に議席を持つ9政党に演説を要請し、オンライン参加の1政党を含め全党が出席。5人の現職国会議員を含む弁士が登壇した。若者へ訴える絶好の機会とあってか、地元選出だけでなく、関東や関西を地盤とする議員も駆けつけた。
立憲民主党の横沢高徳参院議員(岩手選挙区)は、モトクロスの練習中に事故で脊髄(せきずい)を損傷。車椅子生活となった後、チェアスキーに出合い、パラリンピックに出場した経験などを基に「何度でもチャレンジできる社会に」と訴えた。
教育無償化を実現させる会の嘉田由紀子参院議員(滋賀選挙区)は「(目指す)教育無償化はシングルイシュー(単一の争点)ではない」と主張。実現することで教育格差是正、少子化対策、国際競争力回復なども見込めるとした。
オンライン参加した国民民主党の浅野哲衆院議員(茨城5区)は「対決より解決を大切にしている政党だ」と説明。ガソリンの税負担を一部免除するトリガー条項などを提案してきたとアピールした。
岩手県内組織の幹部や地方議員らが登壇した政党もあった。公明党は給付型奨学金などの取り組みをPR。共産党は全国の時給を一律で1500円にアップすると訴え、れいわ新選組は消費税廃止を主張した。社民党は護憲の立場を強調した。
生徒らは9政党の代表者による各5分の演説を聴いた後、衆院選の比例代表と同様、支持する政党を選んで投票した。学習の一環で書き込むこととされた自身の考えなども記述した1票を投票箱に入れた。投票箱は、盛岡市選挙管理委員会が実際の選挙で使っている「本物」だ。
同校は開票結果もそのまま公表する。有効投票198票のうち最も支持を得たのは立憲。得票率38・4%で、76票を集めた。次いで維新22・2%(44票)、共産19・2%(38票)などと続いた。一方、自民は3%(6票)、公明は3・5%(7票)で、野党優勢の結果に終わった。
メモを取りながら話を聴いた生徒の表情は真剣だった。「守りより攻めの政策を」と訴えた維新・沢田氏に「攻めの政策にはリスクがあるのでは」と休憩時間に個別質問をぶつけていた男子生徒(17)は「楽しかった。政治のニュースにはマイナスなイメージを持っていたが、ちゃんと聴くとプラスの部分があった」と満足げに話した。
演説を終えた直後の自民・藤原氏は取材に「5分間でテーマを絞ることが難しかった」と頭をかきながら「若者に訴えるべきことは勉強になった」と、どこかすっきりした表情だった。及川浩純(ひろずみ)校長は「生徒にとっても政治や社会が身近になると思う」と話した。【釣田祐喜】
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