「お金と投資」の著書がベストセラーとなっている2人に、投資ブームを煽る「誇張や断定」情報とどう付き合うかを聞いた(撮影:今井康一)新NISA導入や株高を受け、「お金の本」に注目が集まっている。そんな中、特に多くの読者の支持を集めているのが、2024年1月に刊行され13万8000部を突破した『転換の時代を生き抜く 投資の教科書』(後藤達也著、日経BP)と、2023年10月に刊行され19万部を突破した『きみのお金は誰のため――ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』(田内学著、東洋経済新報社)だ。今回、東洋経済オンラインでは著者の後藤達也氏、田内学氏の対談を企画。投資、経済、金融教育など、「お金のこと」について幅広く語り合ってもらった。※本記事は東洋経済オンラインと日経BPの共同企画の中編です。記事末のリンクから、前編は東洋経済オンラインで、後編は日経BOOKPLUSでお読みいただけます。

―――後藤さんは、アメリカ経済の話を本の中でも頻繁に触れられていますが、具体的にはどういうことに注目していらっしゃいますか。

後藤達也(以下、後藤):まずは、アメリカ経済の強さですね。この1~2年間、記録的なインフレに見舞われて、利上げを重ねなくてはいけない状況になってしまったにもかかわらず、リセッションには陥らなかった。確かに絶好調期からは少し減速したかもしれませんが、あの国の底力の強さを改めて感じさせられた2年間でした。

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経済が好調に推移しているので、利下げが遅れて株価には逆風になるという話もありますが、俯瞰すればとにかく強いと感じます。

今年1年に関して言うと、いろいろなリスクはあると思いますが、やはり大統領選挙の行方が最大のリスク要因でしょう。トランプになるかどうかで、株価や経済だけにとどまらず、地政学的にも、環境対応にしても、ありとあらゆることが劇的に変わってしまう可能性があります。バイデンとどちらが大統領になるかは、壮大な不確実要因ですね。

仮にトランプになると仮定しても、正直どういう世界になるかわかりません。8年前にもトランプになったらなるだろうと言われていた世界があって、そのとおりになった部分もあったし、いろいろ問題が起こったりもしました。でも、少なくとも経済は好調に推移し、株価はめちゃくちゃ上がりました。

事前には、「もしトランプが大統領になったら、株価が暴落する」と言われていたにもかかわらずです。ですので、本当に壮大な不確実性ですね。

後藤氏「トランプは”手あたり次第”の可能性も」

後藤:トランプはアメリカの製造業が大好きなので、大統領に返り咲いたら、円安・ドル高基調もガラッと変わるかもしれません。

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前回、大統領だったときもFRBに利下げやマイナス金利を要求したぐらいなので、ドル高をとにかく腕力で是正させようと、介入でもなんでも、手あたり次第の手を打ってくる可能性もないわけではありません。もしそうなれば、当然、円安・ドル高が激しく調整されることになるでしょう。

―――田内さんは何か、アメリカだけでなくグローバル指標で注目されているものはありますか?

田内学(以下、田内):この分野は後藤さんが、プロとしてずっと見てらっしゃるので、今のお話だけで十分だと思います。

プロと言えば、僕自身が心がけていることが1つあります。世の中はいろんな分野に細分化されていて、それぞれの分野に専門家がいるのですが、経済やお金の話に関しては、みんななんとなくボヤっとは知っているので、それっぽく聞こえるけれど間違った情報を発信してる人が多いと感じています。

田内 学(たうち・まなぶ)/社会的金融教育家。1978年生まれ。東京大学工学部卒業。同大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。2003年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。以後16年間、日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーディングに従事。2019年に退職後、執筆活動を始める(撮影:今井康一)

後藤:断定口調じゃないとインパクトが弱く、読者や視聴者に響きづらかったりするので、無理して断定口調にしている人も見かけますね。

でも、経済ってそんなに単純なものではありません。1人の人間があらゆる情報を整理するのは無理ですから、何でも喋れてしまう人は、むしろ眉唾だと思ったほうがいいですね。

後藤氏「答えられないと、使えないと思われる」

後藤:テレビとかで、例えば「年末の日経平均はいくらになると思いますか」みたいな、すごい無茶ぶりな質問をされたりするんですけど、その度に「答えられません」と言っています。

すると「こいつ使えねえな」と思われて、将来番組に呼ばれなくなるリスクがあるのですが、「使えない」と思われないように必死に応えてしまうと、もう自分の尊厳や長い目で見たブランドがどんどん崩れていくので、そういう仕事はお断りするようにしています。

――誇張や断定に踊らされないために、そういう情報とはどう付き合えばいいのでしょうか。

田内:株価は、踊らされる人が多いと実際に上がってしまいます。ただ、それは実力とは別もの。みんなが買っているから上がっているだけだと肝に銘じていると、踊らされることもないと思います。

後藤:XやYouTubeの情報だけにベットしないことが重要です。特に、今みたいに株高がはっきりしてくると、それで儲かっている人の声がいっぱい出てくるし、その人たちのオラオラ感がもっと強さを増していきます。逆に、「いよいよバブルだから気をつけたほうがいいよ」という声はかき消されてしまいます。

そうすると、「本当にそうだ。乗り遅れるかもしれない」みたいな感じで、焦りが増してしまうのですけれど、でも、世の中の人が全員強気になって「買いだ、買いだ」となったころって、大体もうピークになっているんですよ。

後藤 達也(ごとう・たつや)/経済ジャーナリスト。1980年生まれ。2004年から18年間、日本経済新聞の記者として、金融市場、金融政策、財務省、企業財務などの取材を担当し、2022年3月に退職。経済ニュースを「わかりやすく、おもしろく」をモットーに経済や投資になじみのない人を念頭に、偏りのない情報の発信を目指している(撮影:今井康一)

後藤:なぜそうなるかと言うと、買いたい人、買わなきゃいけない人は、その段階になる前に買い切っちゃってるからです。追加で買う人が、もういなくなっちゃってるんですね。

そんなタイミングで、何か逆回転のショックが起こったら、売る人がものすごい勢いで出てくる。潜在的な売り需要が非常に強いので、気をつけたほうがいいですね。今はSNSというフィルターがあって、余計それが拡張されているような感じがあるので、気をつけたほうがいいです。

例えば、2021年は、GAFAが最強っぷりを発揮して、S&P500が連日最高値を更新しているような状況でした。すると、「日本で円預金している人なんて情弱だ」みたいに煽られて、「黙って積み立てているだけで、こんなに儲かるのに」といった発言が多く聞かれるようになりました。だいぶ極まってきている雰囲気が出ているなと思っていたら、やはりその後、2022年にはアメリカ株は下がりました。

今がバブルとは言わないですが、「流れに乗り遅れる」と焦ったりしないというのは大事ですね。長い目で少しずつ積み立てするのはいいと思いますが。

田内氏「金融商品は、普通の商品とは決定的に違う」

田内:価格は需給によって決まりますが、金融商品は、普通の商品とは決定的に違うところがあります。それは、買った人は「いつか売ること」を目的に買っているということです。

そのまま会社を保有することを目的に株を保有したいという人が増えるのだったらいいのですが、実際は、安く買って高く売ることを考えている人が大勢を占めています。

2人の対談は動画でも収録(撮影:今井康一)

僕がゴールドマンに入社したのは2003年だったのですが、この年の6月にバリュー・アット・リスク・ショックと呼ばれる日本国債の暴落が起きました。

暴落が起きる前に、金利がとても低くなっており、日本国債の価格がどんどん高くなっている状況でした。保有していたらちょっとずつ儲かる、だからまた買うということが繰り返されていました。

通常だと値下がりしたときのリスクも念頭にはおいておきます。でも、みんなが買っている状況だと、値下がりすることもほとんどないから、どんどんと買う量が増えて……最終的に暴落してしまいました。まさに、新たに買う人がいなくなってしまっていたのです。

国債の市場はプロばかりが取引をしている市場なのですが、そんなプロしかいない市場でもそういうことが起きることがあるのです。株式市場に参加するなら、なおのこと注意が必要ですね。

後藤:バリュー・アット・リスク・ショックというのを、すごく平たく言うと、ここ1~2年とか、場合によっては5年ぐらいの動きだけを見て、このぐらいの幅で価格が変動するだろうという推測を立てて、それだったら「これぐらい派手に暴れても大丈夫だよね」と投資の意思決定をしていたわけです。ただし、あくまでもここ1~2年とか5年の動きが推論の基なので、何十年の間では予想外の動きになって、ショックが起きることになってしまうのです。

株に関していうと、この1年の値動きが非常に強いからといって、「これぐらい突っ込んでも、全然大丈夫でしょう」と考えていると、ショックに見舞われることが十分あるということです。

要するに、ここ1年とか2年とかの動きだけを見て、それが「この世の原理だ、この原理に従って動くから、このままずっと続けていけばいい」と思って調子に乗っていると、構造変化が起こったときに激しくやられてしまうということなんですよね。

後藤氏「今年の相場は、歴史的にかなり珍しい動き」

後藤:正直に言って、去年の株式相場にしても今年の株式相場や為替にしても、歴史的に見てかなり珍しい動きをしています。これが常に当たり前だと思い込んで、「あ、今年は一気に資産が3000万円まで増えた。この調子でいけば3年後には1億円に余裕でいくな」という発想を持つのは、極めて危ないと思います。

テレビなどでも、「この5年間のS&P500の成長が50年間続いたら、こんなに儲かります」みたいな雑な説明をしていたりするのを見かけます。もちろん続いたら解説のとおりになりますが、普通は続きません。投資に慣れていない人だと、そういう単純な計算が説明に入ってくると、「すごい」と思っちゃうようです。

田内:都合のいいデータを切り取っているグラフが紹介されていることも少なくないですしね。

後藤:グラフを読み取るのも金融リテラシーというか、情報リテラシーですよね。グラフって発信者の都合のいいようにいくらでも加工できてしまうので、「このグラフ、怪しくないか」と思える視点はとても大事です。

穏やかに始まった対談だったが、白熱する場面もあった(撮影:今井康一)

(構成:小関敦史)

前編、後編の対談記事はこちらから(後編は日経BOOKPLUSに掲載)
【前編】日本中が熱狂する「投資ブームの今」をどう見るか
【後編】注目の著者が激論「投資教育の是非について」

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