自民党の高村正彦前副総裁が外交・安全保障などに関する証言をまとめた新著「冷戦後の日本外交」(新潮社)を出版した。高村氏は副総裁を務めていた当時、靖国神社に合祀(ごうし)されている第二次世界大戦のA級戦犯について、安倍晋三首相(当時)の側近から分祀(ぶんし)に向けた相談を受けていたことを明かした。
同著は、第2次安倍政権で官房副長官補を務めた兼原信克氏らが高村氏に聞き取ったオーラルヒストリー(口述記録)。高村氏は「安倍さんの超側近が個人の意見だとして分祀ができないかと相談に来たことがあります」と証言。側近の名前は明かさなかったが「安倍さんが生きていたら分祀ができたかもしれません」とし、安倍氏が分祀を検討していたとの認識を示した。
その後、日本遺族会の元会長で分祀を主張してきた古賀誠元幹事長に「安倍さんに会ってくれないか」と頼むと、古賀氏は「いつでもいいよ」と応じた。しかし「なかなか機会がつかめず、そこで終わってしまいました」といい、安倍氏と古賀氏の面会は実現しなかったという。
安倍氏は保守色の強い政策を掲げて第2次政権を発足させ、2013年12月に首相として靖国神社を参拝。中国、韓国の強い反発に加え、米政府が「失望」を表明するなど外交上の損失を招いたため、分祀により沈静化を図ろうとした可能性がある。
靖国神社は1978年に東条英機元首相ら極東国際軍事裁判(東京裁判)のA級戦犯14人を合祀した。天皇の参拝は75年を最後に途絶えており、合祀が「不参拝」の契機となったことが元宮内庁長官のメモなどで明らかになっている。
合祀されたA級戦犯を巡っては、北岡伸一東大名誉教授が22年のインタビューで、安倍氏と面会した際に分祀を提案したところ、安倍氏が「私もそう思います」と答えたと明かしている。【田中裕之】
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