政府は16〜18日に都内で太平洋島しょ国・地域の首脳らが集まる「太平洋・島サミット」を開いた。日本企業が展開する脱炭素や金融で新事業を通じ、直面する課題を解決する。通信や法制度などビジネス環境も整える。日本の官民はともに経済発展を目指す姿勢を示し、影響力を増す中国との違いを明確にする。
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太平洋は各国の安全保障上の要衝にある。日本にとっては鉱物資源を輸入するオーストラリアとの海上交通路(シーレーン)だ。中国は日本の小笠原諸島から太平洋のグアム、パプアニューギニアを結ぶ「第2列島線」を対米防衛ラインの一つと位置づける。
太平洋・島サミットは岸田文雄首相と太平洋諸島フォーラム(PIF)に参加する18カ国・地域の首脳らが集まる。日本が同地域との協力を深めるために1997年から3年に1回の頻度で開いてきた。新型コロナウイルスの流行で対面開催は2018年以来になる。
首相は島しょ国特有の課題への協力を表明する。岸田政権の「新しい資本主義」は社会課題を経済成長のエンジンにする発想だ。グローバルサウスでの事業展開を対象にした補助金を使い、現地の社会問題を解決する日本企業の事業を財政支援する。
気候変動による海面上昇の影響を受けやすい島しょ国にとって脱炭素の取り組みは切迫感が強い。パラオでは川崎重工業が日本企業が電力系統を安定させる新技術を使った蓄電池システムを導入するほか、現地の人材を育成する。
人口が少なく経済規模が小さい島しょ国は金融においても問題を抱える。預金が米国に本店がある銀行に集中し、経済成長のために国内資金を活用できていない。
ブロックチェーン(分散型台帳)開発のソラミツ(東京・渋谷)がパラオで貯蓄を目的とした個人向け国債の発行・管理・運営システムを開発する。
パプアニューギニアでは同社が中央銀行デジタル通貨(CBDC)の実証実験を実施する。ブロックチェーン技術を利用した大洋州島しょ国地域の共通プラットフォームの構築もめざす。
通信環境の改善でも貢献する。NECは23年にミクロネシア連邦、キリバス、ナウルの3カ国で4つの島を結ぶ光海底ケーブルの敷設を受注した。日米とオーストラリアの3カ国が資金支援している。中国企業による計画があったものの米国が安全保障上の懸念を示して頓挫させた経緯がある。
日本政府は法務・司法分野でも協力を進める。8〜9月に法務省職員を派遣し、現地でのニーズを聞き取る。民法や民事訴訟法、刑事訴訟法などの国内法の整備や法律運用、裁判官・検察官ら司法人材の育成などでの協力を想定する。
日本と島しょ国の関係はかつて政府開発援助(ODA)を活用し「支援する側」「支援される側」との色彩が強かった。ビジネスを共に創り出す姿勢を徐々に強めているのは中国との違いを出す意味合いがある。
前回対面で島サミットを開催した6年前とは太平洋地域の力学は変化した。中国が影響力を増している。19年にキリバスとソロモン諸島、24年に入ってナウルがそれぞれ台湾と断交し、中国との国交を樹立した。
中国は22年にソロモン諸島との間で安保協定を結んだ。中国軍がいずれ拠点として使うとの懸念が広がった。24年2月にはロイター通信がキリバスで中国の警察官が現地警察とともに活動していると報じた。
日米や同志国は危機感を強めている。11日には北大西洋条約機構(NATO)と日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド(NZ)の首脳会議を開き、インド太平洋安保について話し合った。
太平洋島しょ国も米中の対立に巻き込まれることを警戒する。22年に将来に向けた共通の関心事項を集約した「2050年戦略」を策定し、足並みをそろえて対処しようとしている。日本は「人を中心とした開発」「気候変動と災害」など7項目で構成する同戦略を支持する。
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