リニア中央新幹線の早期開業に向け、建設促進期成同盟会に参加する知事らと6月に面会する岸田首相(右から2人目、首相官邸)=共同

岸田文雄首相は31日、三重県亀山市のリニア中央新幹線の駅候補地を視察する。政府は東京(品川)―大阪間の全線開業を最短で2037年に実現する目標を堅持するようJR東海に求める。首相が旗振り役となって早期開業を支援する考えを重ねて示す見通しだ。

名古屋以西では三重県と奈良県で駅候補地の環境影響評価(環境アセスメント)が進む。首相は亀山市の現場を訪れ、事業の進捗状況などを確かめる。

リニアは最高時速約500キロメートルで、東京―大阪間を最速67分で結ぶ。JR東海は政府が低利で貸し出す3兆円の財政投融資を活用し、最短37年の全線開業を想定する。当初は45年に全線開業する計画だった。

東京ー名古屋間については最短27年の開業を目指していたが、今年3月に静岡県内の区間の工事の遅れを理由に事実上断念した。静岡県の川勝平太前知事がトンネル掘削による川の水量減少などを懸念して工事に反対していた経緯がある。

全線開業の目標年度も遅れるとの懸念が沿線の自治体から出ている。

首相は6月7日、首相官邸で沿線県の知事やJR東海の丹羽俊介社長らと面会した。沿線自治体でつくる「リニア建設促進期成同盟会」が早期の全線開業を求める要望書を提出した。

出席した奈良県の山下真知事は「名古屋までの開業延期は大変残念だが、なんとか大阪までの開業は37年を堅持してほしい。岸田首相のリーダーシップをお願いする」と強調した。リニア新駅の周辺では地域への波及効果に期待が高まり、早期開業を求める声が根強い。

首相は財政投融資による国の支援を踏まえて「全線開業にかかる現行の想定時期のもとリニア中央新幹線の整備が適切に進むように支援する」と表明した。

政府は6月下旬にまとめた経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)にもリニア全線開業の最短37年目標を堅持する趣旨を明記した。

「(JR東海の)財務状況などをモニタリングし、必要な指導と技術的支援を行う」と盛った。整備効果を最大限発揮するため「沿線自治体と連携して駅周辺を含めたまちづくりを進める」とも触れた。

全線開業を37年に間に合わせるには東京―名古屋間の開業前に、名古屋以西の工事計画をつくり早急に着手する必要がある。政府には東京―名古屋間と名古屋―大阪間を並行して工事する手法が念頭にある。

JR東海の丹羽社長は「名古屋の開業以前に大阪までの工事に着手することは財務面や工事の遂行能力などを踏まえると不可能だ」と語る。トンネル掘削工事には専門人材が不可欠なため人手不足の課題があり、名古屋以西の工事に割く余裕はないという。

ルートの決定にも時間がかかる。23年12月に着手した名古屋以西の駅候補地を巡る環境影響評価には2年以上かかる計算だ。JR東海は26年にも具体的なルートや駅を決める。

3兆円の財政投融資は16年に安倍政権下で決まった。使途の対象は国が認可している東京―名古屋間の工事費に限っており、全線開業にかかる費用は9兆円を超える。

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